”お産の先進国”ニュージーランドなどにあり、女性の妊娠から出産、産後まで同じ助産師が寄り添い、継続してケアに当たる「My助産師制度」。同制度を参考に、兵庫県丹波篠山市が昨年から助産師派遣の取り組みを始めている。連載2回目では、助産師という仕事、そして、My助産師の普及を目指す人々の取り組みを追う。(森田靖久)
助産師「命の根源にふれる仕事」
「子どもを産んだお母さんが初めて赤ちゃんを抱くとき、自然と『あぁ』という声が出る。その瞬間は、『命の根源』にふれている領域。私はただそばにいて、『この瞬間を味わい尽くして』と願う。大変なことも多いけど、『私はこの人のお産を待っているんだ』と思うと、とても幸せで、うれしいんですね」
兵庫県川西市の旧小学校を活用した公民館。10月のある日、全国から助産師20人が集っていた。コの字に作ったテーブルの中心で話しているのは、沖縄県の開業助産師・板垣文恵さんだ。
「助産師の仕事は本来、お母さんが持っている産む力を高めるもの。そのためには妊娠中からお母さんにかかわることが大切。その人がどんな人生を歩んできて、どんなお産をしたいと考えているか。それを察知できる感性が助産師には求められる」。板垣さんの言葉に参加者らが何度もうなずき、時には笑う。
参加者の中には、近く分娩を休止する病院の助産師もいた。
「仕事もお母さんも赤ちゃんも大好き。院内助産の設立も考えているけれど、ニーズがあるかもわからない。何よりも、同じ考えの仲間がほしい」。言葉に詰まり、涙があふれた。
同じ助産師として語り合い、悩みを分かち合いながら高め合う場は、「日本妊産婦支援協議会りんごの木」が定期的に開催している。
助産師とは、厚労大臣の免許を受け、正常な分娩の手助けや妊産婦、新生児の保健・育児指導を行う女性専門職だ。厚労省によると、2018年度末で病院や診療所、助産所などで働く助産師は全国に3万6911人いる(看護師は121万8606人)。助産師になるためには、大学や専門学校などで看護と助産課程を修了し、看護師と助産師両方の国家試験に合格しなければならない。
働き方は主に▽病院(20床以上)▽診療所(19床以下)▽助産所(9床以下)―で、大半は病院か診療所に勤務している。
通常、病院や診療所に勤務している助産師は交替制をとっているため、同じ患者に毎回、同じ助産師が対応するわけではない。外来と病棟で勤務が分かれていることもあり、出産の時、「はじめまして」というケースもある。助産師が主体となって運営する助産所では継続ケアに当たるが、施設数はごくわずかだ。
「お産」成し遂げた体験 が自信に
このような状況の中、「My助産師制度」を日本でも普及させようと活動しているのが、助産師や母親でつくる「出産ケア政策会議」。妊産婦のうつ病や自殺、また、せっかく産んでも子どもを虐待して死なせてしまう親が増える中、同会議メンバーで「日本妊産婦支援協議会りんごの木」の代表・古宇田千恵さん(49)=兵庫県猪名川町=は言う。
「今は死なせずに『産ませる』だけでは母子の命は守れない。母親としてのスタートは出産。周囲のサポートを受けつつも、『自分の力で成し遂げた』という成長体験ととらえられたなら、自信が生まれ、子育ても含めてより人生が豊かになると考えています」
そのために同協議会は、「女性の力を信じ、潜在能力を引き出す存在」として助産師を、そして、「My助産師制度」の重要性を訴えている。
社会学を学んでいた古宇田さんは、自身の妊娠を機に「お産」に関心を持ち、調査・研究を進める中で、ニュージーランドのMy助産師制度にたどり着いた。その後、2008年から1年間、同国に滞在する機会を得て、同制度や制度化に導いた女性や助産師らを取材している。
古宇田さんによると、同国では、助産師による継続ケアを望む女性や、それに応えようとする助産師らが政府に働きかけを行い、法制度化にこぎつけた。
世界保健機関(WHO)が示すガイドラインでも、「母子を出産時の異常から救うのと同じくらい、母子が潜在能力を発揮することが重要」とし、助産師による支援をモデルに上げている。
とはいえ、国連児童基金「ユニセフ」の調査で、日本は生後28日未満で死亡する乳児の割合が1000人中0・9人と、世界で最も低く、「赤ちゃんが最も安全に生まれる国」ともいわれる。
その背景には、医師の高い医療技術があることは間違いなく、古宇田さんも、決して現在の体制を否定せず、「医師と助産師の『いいとこどり』のような、よりよい日本独自の制度ができれば」と期待する。
同協議会では、各地に出向いてMy助産師制度の説明を行ったり、出産時のつらい体験を劇にした「バーストラウマ劇」を上演。バーストラウマは、妊婦が出産時などに助産師や医師から厳しい言葉を掛けられたりすることで、出産を「つらい体験」と感じ、心に焼き付けてしまうことだ。
古宇田さんは、「お産や子育ては本来、『気持ちのいい』もの。そうでなければ、人類は繁栄しない。なのに、バーストラウマなど、さまざまな要因で『気持ちよくない』ものになることが多い」とし、「私たちはお母さんに『産むって楽しい』と思ってもらいたい。そして、『また産みたい』と思えれば、少子化の改善にもつながるはず」と呼びかける。
=(3)に続く。