専門医「感染者も被害者」 風評と差別懸念「検査する人出なくなる」 勇気出した検査に感謝 新型コロナ初確認受け

2020.03.12
ニュース丹波市地域

市内で感染者が出たからといって特段怖がる必要はなく、これまで通り手洗いなどできる予防をと呼びかける見坂センター長=2020年3月9日午前10時7分、兵庫県丹波市氷上町石生で

兵庫県丹波市で9日、初めての新型コロナウイルスの感染者が確認された。感染者発生を受け、市民はどのように考え、行動することが大切なのか、感染症が専門の見坂恒明・県立丹波医療センター(同市氷上町)の地域医療教育センター長(45)=神戸大学特命教授=に、2月に続いて三たび話を聞いた。(内容は3月10日時点)

―1人目の患者が確認された。受け止めを

どこで感染者が確認されても不思議はなかった。当該感染者は、保健所に相談の上で医療機関を受診し、検査を受け、陽性反応が出たので入院措置となったと発表されている。これまでから言われていた手順をきっちり踏んで感染確認に至ったことは、好ましいと思っている。

―市民は市内で発生したことにおびえている

私は今も「少ししつこい風邪かなあ」という感覚。発症しても、8割が軽症で治る。もちろん、高齢者でウイルスによる肺炎が重症化し、時に不幸にして亡くなる方もあり油断はできないが、インフルエンザや他のウイルス、さらに通常の細菌でも肺炎が重症化することは頻繁にあること。日常使用する薬のせいで重症の肺炎をおこすこともある。専門家が『怖い』と言うのは、未知のウイルスで全容がいまだ解明されていないからだが、分かったことも多く、分かったことを頼りに最善を尽くす。特効薬はないので、本人の治る力を引き出せるよう最善のサポートをする。

―感染者が出たことで懸念することは

過度に怖がることと、風評被害だ。「自分や家族が感染しているかも」と過度に心配し、疑わないこと。例えば、「近所に住んでいる」「利用するスーパーが同じだった」などは気にする必要がない。「感染者の家族と職場が同じ」「感染者の家族と同じスーパーを利用している」「感染者の家族の親戚が、友人と同じスーパーを使っている」と、心配し始めたらきりがない。不安の増幅は、風評被害、差別へとつながりかねず、その点を大いに懸念する。濃厚接触者は、保健所が調べ、検査を受けさせる。濃厚接触者以外は、検査を受ける必要がない。これまで通りの生活を送ることが大切だ。

―風評被害、差別の点についてさらに聞きたい

まず、感染者と、有症状患者の違いを説明する。先ほどから「感染者」と言っているように、当該感染者は、発表によると、感染はしているが、症状がない状態で検査を受けている。発熱や咳、くしゃみなどの症状はない。発症している人と比べると、飛沫感染は生じにくく、起こるとしたら接触感染。格段に他の人に「うつす力」は低いと思われる。

当該感染者は、症状はないのに、大阪の感染者が多数出ているライブハウスに行っていたからと自ら検査を受け、陽性になったと推測される。ライブハウスには全員の顧客名簿はないだろうから、観客の追跡をしようがない。症状がないので黙っていたら分からなかったと思う。変に聞こえるかもしれないが、感染拡大防止の点からは「自ら進んで検査を受けてくれてありがとう」と思う。検査を受けたから陽性が確認された。受けなければ、本人に自覚がないまま、感染を広げていたかもしれない。

複数の検査陽性者の接点から大阪のライブハウスでもらったんだろうという感染源が分かり、この間の生活を聞き取ることで、濃厚接触者が特定できる。仮に濃厚接触者が感染していたら、その人が濃厚接触した人を検査すればいい。追跡を続けられる。勇気を出して検査を受けた人に不当なバッシングをすると、検査を受けようという人が出てこなくなる。追跡ができなくなると、対策の打ちようがなくなる。心当たりのある人は、保健所に相談してほしい。

先ほどの例で言うと、「感染者と同じスーパーを使っていた」「感染者が勤めていた会社とは取引したくない」と、怖がることに意味はない。「あそこにコロナの患者がいるらしい」と、医療機関も風評被害の対象になりがちだ。

―住民は過度に怖がらず、これまで通りの生活を送れば良いのか

そうだ。できることは、手洗い、うがい、咳エチケットなどの感染症対策。有症状者は新型コロナに関わらずマスク着用を。多くの人が訪れ、空気が入れ換わらない空間に長く滞在しないよう気をつける。その他は、感染者が確認される前と同じで良い。

―最後にメッセージを

感染者が今後どれくらい増えるかは分からないが、不幸にしてウイルスに感染した人が、全員無事に退院できるよう、できうる最善の治療を行う。感染者でも患者でもない住民のみなさんは、かかった人を差別しないでもらいたい。悪いのはウイルスで、感染した人は被害者なのだから。感染が疑わしい時は、保健所に電話相談してほしい。保健所の指示の下、当院に受診してもらえれば、一般の方の交わらないところに感染症用の診察室を設け、体制は整えている。

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