兵庫県西脇市周辺を中心に、半世紀以上愛されてきた「マルフク醤油」。同県丹波市山南町阿草出身で、昨年12月に84歳で亡くなった藤原昌秋さん(西脇市)が最後は1人で販売を続けていたしょうゆで、丹波市にも少なからぬ顧客がいた。藤原さんの死去により、販売先がなくなったが、近くの藤井酒販で取り扱いが始まり、馴染みの客が連日のように訪れている。
「マルフク醤油」を製造しているのは、同県たつの市龍野町の「末廣醤油」。もとは西脇市の「高瀬味噌」が昭和30年ごろに開発したが、会社の方針転換で製造をやめることになり、30年ほど前に末廣醤油がレシピを引き継いだ。
末廣醤油の末廣卓也社長(59)によると、「風土に合った甘口の醤油」で、うまみを引き出すまろやかな味という。高瀬味噌の高瀬幸一郎社長(59)は、「(西脇市特産の)播州織の仕事をするため、九州や四国から働きに来ていた人たちの口に合うよう開発したと聞いている」と話す。
末廣醤油が引き継いだ際、販売は、高瀬味噌から独立していた元社員の藤原さんら3人が受け持つことに。藤原さんらは、配達販売を中心にファンを育てていった。最盛期だった10年ほど前には、一升びんで月に720本ほどの製造があったという。
藤原さんのマルフク醤油にかける情熱は並々ならぬものがあり、長男の幸人さん(57)によると、「生きがいだから、死ぬまでやらせてくれ」と常々言っていたという。言葉どおり、昨年11月に体調を崩して入院するまで、家族に手伝ってもらいながら配達も続けた。
藤原さんが亡くなった後、末廣醤油に「マルフク醤油はどこで買えるのか」と問い合わせが入るようになり、困っていたところ、生前から親交もあった藤井酒販の藤井英理社長(49)が事業継承を提案し、実現した。
販売を始めた3月以降、藤井酒販には毎日のようにマルフク醤油を求める客があるといい、「根強いファンの存在にカルチャーショックを受けた」と藤井社長。「お姑さんが使っていて、家の味はこの醤油でないと出せない」「嫁いだ娘から送ってと頼まれて」など、長年一途に使い続けている人も多いという。
藤井社長は、藤原さんが手書きで付けていた顧客台帳の丁寧さに驚いており、「商売人としても尊敬する」と話す。
高校卒業後、高瀬味噌に就職した藤原さん。台帳には、丹波市内の顧客の名前も多く書かれているという。
一升びんのみの販売で、こいくち(宝)、こいくち、うすくちの3種類。「宝」のみ630円(税別)で、あとの2種類は660円(同)。