かつて治めた地域に再び降臨―。物流機器のレンタル、販売を行う「ワコーパレット」の倉庫「黒井城センター」(兵庫県丹波市春日町黒井)の外壁に、同市の同城主だった赤井(荻野)悪右衛門直正をモチーフにした絵が描かれ、道行く人の目を引いている。馬に乗る勇壮な直正が、戦国の世から440年以上を経て再び町を見渡している。
屋上にある機械室の外壁の南面と東面に、それぞれ縦3メートルほどの大きさで描かれている。南面は「黒井城」の文字と共に、赤い兜と鎧をまとい、長い槍を持って馬にまたがり戦う直正を表現。東面は石垣の上で馬に乗って城下を見下ろす姿が描かれており、「動」と「静」の直正が表現されている。
過去に「丹波市民美術展」絵画部門の最高賞となる市展賞など、数々の賞に輝いた地元の田村英夫さん(69)が手掛けた。油性ペンキを使用し、2週間ほどかけて仕上げた。「これほどまでに大きな絵を描いたのも初めてだし、あんなに高い場所で描いたのも初めて」と笑顔。「黒井城下に住む者としては、少し華やかになったかな」と話す。
天正年間、織田信長の命を受けた明智光秀が、丹波国平定戦「丹波攻め」を繰り広げた。同3年、丹波国に覇を唱えていた直正との戦いでは、直正が光秀軍を挟み撃ちにする戦法「赤井の呼び込み戦法」を展開し、光秀は敗走。この作戦は、同県丹波篠山市の八上城主・波多野秀治が赤井方に寝返ったことに起因するともいわれ、直正と秀治との間にかねてからの密約があった可能性もあるという。光秀は同6年、再び黒井城を攻め、直正を病で失っていた赤井方は敗れ、黒井城は落城した。
同センターは、同城跡のふもと近くにある。同社は昨年、競売物件だった建物を購入し、数万台の商材を置く倉庫として活用。地元で愛され続ける直正を描くことで地域貢献になればと、市内の同社施設を統括する「兵庫オリーブファクトリー」の藤原伸一センター長(64)の知人を通じて田村さんに依頼した。
藤原センター長は、「施設の名前に『黒井城』を入れた。それにちなんだ絵を描いてもらうことで、まちが華やかになれば」と話している。