新型コロナウイルスから自衛するため市販のマスクが品薄になっており、兵庫県丹波市でも布マスクを手作りする動きが広がっている。自分や家族のためのほか、困っている人のために作る人もいる。
ガーゼタオルで立体マスク
同市の黒井地区自治協議会がこのほど、同地区内で布マスクの作り方教室を開いた。地元の小学校区の2家族6人が参加し、1時間ほどかけてガーゼタオルを使った立体マスクの作り方を学んだ。
同自治協議会の活動推進員で、手芸が得意な井口千歳さん(54)が指導した。
工程は、▽型紙を利用し、三味線の「バチ」のような形にガーゼタオルを裁断▽これを4枚重ね、「バチ」の弧の部分を手縫いして2枚ずつ左右に開く▽同じものをもう1セット作り、それぞれを重ね合わせて上部と下部を縫う▽縫い閉じていない部分を利用して、耳にかけるゴムを通す個所を縫う―。仕上げにゴムを通して輪になるよう結んで完成させた。
井口さんが孫のためにこしらえたところ、好評だった。マスクが手に入りにくい昨今、地域の人にも気軽に作れることを伝えようと、同自治協議会を通じて作り方を紹介した「レシピ」を作成。市の広報に添えて全戸配布したほか、同小学校や保護者、地域住民でつくる同学校運営協議会(コミュニティ・スクール)の委員も務めていることから、同運営協議会を通じ、3月に行われた修了式後、児童たちにも配布してもらった。
作り方の指導を受けた女子児童5年は、「簡単にできた。自分で作ったものだし、ずっと付けていたい」と笑顔。3人の子どもと参加した母親(40)は「洗えば何回でも使えるし、手縫いだと子どもでも作れるのがいいですね」と話した。井口さんは「楽しく作ってもらえたのが何より」とほほ笑んでいた。
89歳女性が懸命「社会奉仕に」
「仕事と生活に追われ、これまで社会奉仕ができなかった。縫物で役に立ててうれしい」―。涙で目を潤ませるのは、同市の八尾幸子さん(89)。娘から、基礎疾患があり、隣の同県丹波篠山市の障がい者施設を利用する女性が「1日2枚マスクが必要なのに、手に入らなくて困っている」と聞き、作るようになった。
昔からつくろいや裾上げなど家族の衣類の縫物はしてきたが、マスクは作ったことがなく、娘が調べてくれた作り方を参考にこしらえた。娘を介して届けたところ、写真が送られてきて、大変喜んでもらえたことが分かり、感激したという。
いとこの足立勝子さん(74)が経営するカフェで厨房の手伝いをしているが、感染症の拡大防止のため、3月25日まで臨時休業。ちょうど仕事もなかったことから、同店の奥にこもって長年愛用している年代物のミシンで縫物に没頭した。
女性に何種類か渡した後も、布とゴムひもがあるからと、作り続けた。店は休みなのに、顔を見に来る人がちょこちょこあり、八尾さんがマスクを縫っていることが知られ、注文する人も現れた。
「マスクくらい、と思って縫い始めたけれど、あごと鼻の角度など、よく研究され、あの形になっていることが分かった。カーブを縫うのは難しい。柄がきれいに出るように手も頭も使っています」と笑う。「大したことをしていないのに、人に喜んでもらえて本当にうれしい」とほほ笑んだ。