”キツネの靴泥棒”近隣市でも 神社周辺に毎日散乱 餌と勘違い?「結局置いてる人が悪い」

2020.06.21
地域

周辺に散乱した靴が集めてある波々伯部神社=2020年6月12日午前9時55分、兵庫県丹波篠山市宮ノ前で

「家の外に置いている靴が盗まれるんや」―。そんな情報が兵庫県丹波篠山市内の住民から記者のもとに寄せられた。使用済みの靴を盗むとはなかなか変わった愉快犯―ではなく、犯人は野生の「キツネ」。先日、隣接する同県丹波市でも同様の”被害”が起きていることを報じたばかり。キツネたちはよほど靴がお好きなようだ。丹波篠山市でもこの季節になると農道にほぼ毎日、誰かの靴が散乱しているという。現場はどうなっているのか。取材に走った。

 こぬか雨が降りしきる中、記者が訪れたのは丹波篠山市日置地区にあり、「丹波の祗園さん」と呼ばれる波々伯部(ほほかべ)神社。情報提供者の男性(61)から「神社に行けば詳しいことが聞けるわ」と言われていたからだ。
 推定樹齢数百年の大杉がそびえる境内はしんと静まり返り、湿気と共に神聖な空気が満ちている。
 「あぁ、キツネの。それならこっちです」
 近松戝宮司(73)の案内で境内の一角に向かうと、驚きの光景が広がっていた。
 サンダル、スニーカー、婦人靴に長靴。大人用に子ども用まで―。その数、約60個がきれいに並べられている。大半が片方だけだ。
 聞けば、4年ほど前から近松宮司が神社周辺の農道や山中に散乱しているものを集め、持ち主がいたら持って帰れるようにしており、時折、自分の靴を見つけて持ち帰る人がいるそう。冬まで待って持ち主が現れないときには処分していると言い、これまでのものも含めると数え切れない量になる。
 近松宮司によると、少なくとも先代宮司のころにはこの”事件”が始まっており、10年以上にはなるという。
 神社の裏山の「祗園山」一帯にキツネの巣があるようで、歴代宮司もたびたび境内や周辺でキツネの姿を目撃しており、「子ギツネのいたずらやないかと思っています。よく『祗園さん(同神社のこと)はキツネ飼っとるんか』と言われますわ」と話す。
 宮司と共に周辺を歩いてみると、農道の脇で3個の靴を発見。近くの稲荷神社のそばには真新しい白いスニーカーが片方だけ落ちていた。
 キツネと言えば、稲荷神社の使い。何やらぞくっとする。
 市内には力士に化けたキツネが藩主を救ったという昔話も残り、力士をまつる神社もあるなど、キツネとは縁深い土地でもある。

農道に散乱する靴

前述の男性宅では3、4年前から被害があり、今年に入ってから合計3個盗まれているという。

 盗まれないようにと高さのある棚をこしらえたものの、油断して地面に置いているとすぐに盗まれるそう。
 宮司に話を聞いた後、男性から再度、電話があり、「稲荷神社の横に落ちてたスニーカー、うちの靴。帰ってきたのは初めてや」と言い、「取材に行ってもらったおかげやな」と感謝された。
 男性宅から神社までの距離は約1キロ。くしくも”犯人”の行動範囲はかなり広いことが分かった。
 キツネの生態に詳しい麻布大学の塚田英晴准教授は、子ギツネのいたずらではなく親ギツネの仕業と見る。人の足のにおいが付着した靴を餌と勘違いした親ギツネが、子ギツネに与えていると考えられるといい、軽井沢や上田市(長野県)、海外でも報告があるという。
 キツネは3月下旬―4月初旬に子を産む。子育て期間の8月下旬ごろまで、親は子に餌を与えるため狩りに出るという。
 近松宮司も「被害は夏ごろまで」と証言しているため、塚田准教授の見解と重なる。ただ、情報提供者の男性は年末や1月にも盗まれており、謎はさらに深まる。
 波々伯部神社周辺の住民は事件をどうとらえているのか。
 近くに住む別の男性(72)は、「山に入ったら、『なんでこんなところに靴が』ということはよくある。靴が盗られるのはかなり昔からで、今では普通ですわ」と言い、情報提供者の男性は、「結局、盗られると分かっているのに外に置いている人が悪いと思う」と笑う。
 近松宮司も、「動物は子どもみたいなもの。私も子ども時代に真新しいふすまに落書きをしたことがある。怒ったところでしょうがないですね」と優しい笑みを浮かべていた。
 ”事件”の真相には親の愛情が、裏側には住民のどこか優しい気持ちがあった。

関連記事