医師不足などにより中核病院の産婦人科が分娩を休止した兵庫県丹波篠山市は、1人の助産師が継続して妊産婦に寄り添い続ける「My助産師制度」について、8月から「My助産師ケアセンター」(仮称)を立ち上げ、市内全ての妊産婦を対象にする方針を固めた。お産の先進国・ニュージーランドの制度を参考にした取り組みで、市によると、実現すれば日本では初という。現在もリスクが高い人や希望者にMy助産師をつけており、事業を拡充して本格始動を目指す。また、近隣病院とも連携しながら妊産婦のケアに当たる専用施設も建設する予定。
計画では母子健康手帳を交付した全ての妊産婦に担当助産師がつき、出産場所やリスクに関係なく、▽交付時の初回相談▽妊娠中期と後期に1回ずつの産前ケア(保健指導)▽産後2週間から1カ月ごろの産後ケアと赤ちゃん訪問―の最低計4回、訪問や電話、来所などで妊産婦と関わる。
妊婦健診や分娩はかかりつけの医療機関で行う。
My助産師は分娩に関わらないが、信頼関係を構築しながら、産前産後の体調管理や、食べ物・運動を通した安産に向けての体づくり、メンタル面のケアなど、時間をかけてあらゆる相談に乗ることで「切れ目のない支援」を提供。不安の解消や異常の早期発見、前向きな気持ちでの出産に導く。必要に応じて病院とも連携する。
また、おっぱいや授乳、思春期や更年期など、女性全般の相談にも応じる。
現状、市の子育て世代包括支援センター「ふたば」内で、助産師1人体制で事業を展開しているが、「My助産師ケアセンター」立ち上げに伴い、助産師を3人に増員して独立。また、妊婦にゆったりと過ごしてもらうことや、「ふたば」が手狭になっていることから、”第二の実家”をコンセプトにした新たな施設を建設する。
関連予算を2日から開会中の市議会本会議に提案している。予算案は、助産師2人を増員することに伴う人件費が約445万円。センター新設の設計費が約1000万円。通常、設計費は建設費の1割程度とされ、市は、「1億円程度に収め、国などの補助を活用するなど、財政状況に合わせた理想的な形を模索する」とした。予算が認められれば、年度内に着工し、来秋の完成を目指す。
またセンターは「分娩機能を持たない助産所」として開設する予定で、病院の理解を得て、将来は助産師による健診などが行える体制も見込む。
同市は、兵庫医科大学ささやま医療センターが今年3月末で分娩を休止し、市内で分娩できる施設が1カ所となった状況を受け、お産応援事業として、妊婦1人につき10万円の補助金を創設したほか、ハイリスクの妊婦などを対象にした助産師訪問事業をスタートしている。
各事業と並行して市民や医師も交えた検討会で将来の「産む」を考える中、一時は分娩ができる公立バースセンター(助産所)の開設に向けた検討も行ったが、近隣病院などと協議したものの理解を得られずに断念。しかし、いずれの病院も助産師の寄り添い支援や医療機関では手薄になっている産後のケアを担う制度については肯定的な見解が得られた。
そこで検討会内に設置した専門部会でさらに議論。全国各地で産科の閉鎖が相次ぐ中、集約化が進むことで、リスクの低い妊産婦のケアが不十分になる可能性があることや、入院期間の短縮で「産後うつ」のリスクが高まることから、助産師が継続したケアを提供する機会をつくることで課題の解決につなげる構想を描いた。
5月30日に開いた検討会で委員らに報告。専門部会の助産師は、「継続的に関わった女性は自然出産する確率が高かったり、早産などの異常も少ないことが研究で明らかになっている。市民がどこで出産されようが、市が継続して支える姿勢を示すことができる」とした。
委員からは、「充実した内容で、子どもがほしい人が安心してお産に臨める」「新型コロナで不安になっている妊産婦も多い。不安を発信できる場として有効」などの意見が出され、医師の委員も「とても良い制度。My助産師によるケアは、一生思い出として残り、丹波篠山への定着にもつながるのでは」と賛同した。
ただ、医師の委員は新施設の建設に対して、「ハコモノありきでは、せっかくの制度なのに、『お金がかかる』と思われるのはまずい。ある程度、実績をつくってからでもいいのでは」と意見した。
対して酒井隆明市長は、「分娩できる場所が限られてきている中、『住みよい』『産み育てやすい』場所と評価してもらうことが何より大事。財政再建をやってきた身として、大きなハコモノはつくったことがないが、子育て施策だけは他のまちに引けを取らないものにしたい」とし、「できるだけ、国や県などの支援を受け、少しでも若い世代に選ばれやすいまちをつくりたい」と理解を求めた。
※My助産師制度 ニュージーランドなどにある法制度。同国では妊娠がわかると女性は病院よりも先に自分専属の助産師「My助産師」を決める。専属助産師は妊娠から分娩、育児まで常に寄り添い、”伴走者”として妊婦をサポートする。切れ目のない支援が正常な分娩や虐待、産後うつの防止につながるとされ、日本国内でも制度化を求める声がある。丹波篠山市の事業はニュージーランドの簡易版で、現在はハイリスクな人や希望者を対象に産前2回、産後1回、助産師が訪問している。