兵庫県唯一の養蚕農家・柿原啓志さん(84)=同県丹波市春日町=宅で、蚕の繭作りがピークを迎えている。「蔟(まぶし)」と呼ばれる紙製の道具に蚕を移し、数センチ角に区画されたスペースでそれぞれ繭を作っており、さながら蚕の“マンション”のよう。楕円形の繭は白く輝いており、今後、長野県の製糸会社に出荷する。
5月にふ化した品種「春嶺鐘月(しゅんれいしょうげつ)」を約2万2000頭飼育。4度の脱皮を経て10センチほどに成育し、9日に蔟に移す「上蔟(じょうぞく)」という作業を行った。
蚕が蔟をよじ登り、ある程度、“部屋”に入ると、天井から吊るしたワイヤーに蔟を引っ掛け、繭を作るのを待った。11日ごろから糸をはき始め、すでに白く美しい楕円をこしらえている蚕も多い。
柿原さんは、父から養蚕を受け継ぎ60年余り。最盛期は年に何度も蚕を飼った年もあった。40年ほど前は、1800キロほどの繭を出荷していたという。
近年は、年に一度だけ養蚕に汗を流す。一連の作業は、柿原さんと妻・富代さん(79)、染織作家で養蚕家でもある原田雅代さん(51)=同町=で取り組んでいる。柿原さんは「暑かったので作業はこたえるが、順調に育ってくれた。45キロほどの繭を見込んでいるが、良い繭になりそうだ」と目を細めている。