認知症と言えば「アルツハイマー型認知症」が最も知られている。脳細胞に悪玉のたんぱく質が蓄積されて脳細胞を破壊していくため、脳の機能が低下する。早期では特に脳内の海馬という記憶の中枢に起こるため、「もの忘れ」を起こす。もの忘れは徐々に進行して脳の全体的な機能が低下する。
90歳を超えるころには、半数以上の高齢者で脳機能低下が認められるという。脳の萎縮は40、50歳代の若い人にも起こることがある。
認知症かどうか、検査や診断を受けることは本人にとっても家族にとっても大きな不安にちがいない。周囲の人が「あれ、おかしいな~」と気づいてから受診に至るまでに1~3年の期間があると言われている。
家族なら、違う違うと否定したい気持ちも大きい。自分自身であればなおさら「認知症」と言われたら…と不安で受診には容易に踏み切れない。そうこうしているうちに症状が進行して、やっぱり一度受診となる。ここまでの期間が『認知症の空白期間』と呼ばれている。
この期間、本人の不安・辛さ・苦しさと、家族の「何とか違っていてほしい。もっとしっかりして」という思いが葛藤を生み、関係を悪化させることが多い。
若年の方なら、職場で「怠けている」と冷たい目でみられ、「うつ病」ではないかと病院を回っても改善しない症状に本人も家族も疲れ果てて、受診した末に「認知症だ」と診断される。
辛い結果のはずなのに、「はっきり分かってほっとした」と言われる方に何人となく出会ってきた。そして、この先、少しでも不安を軽くして生きていけるよう一緒に考える仲間でいようという気持ちに何度もさせられた。
認知症状を呈する病気はアルツハイマー型認知症以外にも数10種類もあるという。
診断することは「あなたは認知症です。もう駄目なんです」と言われることではない。これからどう生きるか、自分らしく生きる方法を家族や周囲の人と一緒に見つける旅の始まりなのだ。
寺本秀代(てらもと・ひでよ) 精神保健福祉士、兵庫県丹波篠山市もの忘れ相談センター嘱託職員。丹波認知症疾患医療センターに約20年間勤務。同センターでは2000人以上から相談を受けてきた。