世界一大粒の大豆 「丹波黒」育むシステム 日本農業遺産認定目指す

2020.07.07
地域

「世界一大粒」の大豆として知られる丹波黒。日本農業遺産認定なるか

兵庫県丹波篠山市などでつくる協議会は近く、特産の黒大豆の栽培に関わる歴史や文化、生産の仕組みなどを「丹波黒を育む丹波篠山システム」としてまとめ、農水省が創設する「日本農業遺産」に申請する。村ぐるみで生産に取り組んだり、優良な種子を安定供給するシステムを柱に申請を行う考えで、認定されれば、日本遺産、ユネスコ創造都市ネットワークと共に、新しい”冠”を得ることになる。酒井隆明市長は、「地域ぐるみで守ってきた丹波の黒豆。コロナ禍の中、農家の方々に勇気を与えられるような取り組みとなるよう、認定を目指したい」と話している。

 農業遺産は、社会や環境に順応しながら何世代にもわたって継承されてきた独自の農林水産業と、それに関わる文化、景観、生物多様性などが一体となった「システム」を認定する制度。
 世界レベルでは国連食糧農業機関(FAO)の「世界農業遺産」がある。日本では2016年、農水省が日本農業遺産を創設し、これまでに15地域が農林水産大臣から認定を受けている。兵庫県内では、美方地域の「但馬牛システム」が名を連ねる。
 認定基準は地域固有の農林水産業システムがおおむね100年以上の歴史を有し、現在も営まれていることのほか、▽地域の食料、生計の保障に貢献▽地域を特徴づける文化、風土、社会組織がある▽地域住民だけでなく、多様な参画があり、システムを継承▽6次産業化で地域を活性化させ、システムの保全を図っている―などがある。
 認定されても助成金などがあるわけではないが、農水省は、「地域の自信と誇りを醸成するとともに、農林水産物のブランド化や観光客誘致を通じた地域経済の活性化が期待できる」とする。
 市はJAや県、商工会、観光協会などと共に、「市農業遺産推進協議会」を立ち上げ、認定を目指す。現在、申請書類の最終の詰めの作業に入っている。
 申請は2年に1度で、今年度の締め切りは今月29日。1次審査が9月にあり、通過すれば来年1月の2次審査に進む。結果は2月に発表される。
 丹波黒は「世界一大粒」とされる大豆で、煮ても皮が破れにくく、漆黒の色つやと芳醇な香り、もちもちとした食感から黒豆の中でも最高級品とされる。完熟する前に秋には枝豆でも販売され、都市部からも多くの人が買い求めに来る。
 兵系黒3号、川北黒大豆、波部黒―の3系統があり、栽培面積は557ヘクタールで全国1位。栽培農家は2660戸で市内全農家の53・6%を占める(数値はいずれも2018年)。1975年(昭和50)には時代の変化で9ヘクタールまで減少したが、コメの減反政策を逆手に取り、再び栽培面積を拡大。松竹新喜劇や料理家・土井勝氏、人気漫画「美味しんぼ」などで取り上げられたことで人気が高まった。
 県全体では一時期、栽培面積トップを岡山県に譲ったが、同県では減少が進んでおり、再び1位に返り咲いている。
 歴史は古く、現在、確認されている最も古い文献では、江戸時代中期の1730年(享保15)に出された料理本「料理網目調味抄」に「くろ豆は丹州笹山の名物なり」と記されており、少なくとも約300年前には特産になっていた。
 そもそもは山が低く、水が不足しがちな地域のため、水を引かずに稲作をしない「犠牲田」を設け、乾田にして在来の大豆を栽培した「堀作」と呼ばれる方式が生産の始まり。堀作を行う田は地域で協議して決めていたことから、「地域全体で農業に取り組む」風土が定着し、現在の生産組合などによる「村ぐるみの生産システム」の基礎となっている。
 明治時代には豪農で大庄屋だった波部本次郎が品種改良を行い、波部黒が誕生。本次郎に始まる「優良種子生産方式」は個人から郡、市、県へと引き継がれ、現在の優良種子生産協議会によって優良な種子を安定供給するシステムの元になっている。
 協議会は、この2つのシステムを柱に据え、他の認定基準を組み込んだ上で申請する予定。
 市農都創造部は、「認定されれば、さらなる誇りの醸成になり、『さらに良いものを作っていく』という意識にもつながる」と期待している。

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