兵庫県丹波地域で新たな新型コロナウイルスの感染者が公表されるたびに、犯人捜しのような噂話が飛び交う。「不安で、悪意はないかもしれないけれど、私には面白がっているようにしか聞こえない。感染した人が居住地を公表しないことから分かるように、当事者や家族は周りの目に怯えている。心細さに噂が追い打ちをかける。秘密を暴かれるようで、たまらなくつらく、怖い気持ちになる」―。家族が一時期、濃厚接触者になり、自身も感染者、もしくは濃厚接触者になるかもしれなかった女性が、感染者への噂話について胸のうちを語った。
「回復した人を温かく迎える社会に」
女性の家族は、県外で濃厚接触者になった。突然、電話がかかってきて検査を受けるよう言われ、指定された県外の病院に車で連れて行った。辺りは真っ暗。車のライトに照らされる医療従事者は白の防護服の上からさらに医療用のガウンを着ていて、その姿に恐怖を覚えた。検査を受ける家族と生活を共にし、同じ車内で検査を待った自分も、家族が陽性なら感染しているかもしれないという恐さがあった。
家族は陰性だった。「自分は幸運で、検査すら受けずに済んだけれど、感染者が感じる不安、心細さの一端を味わった。実際に感染した人の心情は想像に絶する。そういう大変な目に遭っている人が、無責任な噂話にさらされているのが、我慢ならない」と憤る。
「丹波市で出たらしいよ」「丹波篠山市と聞いたけど」「家におられへんようになって引っ越しちゃったらしいよ」と、耳にしたくなくても流言飛語が聞こえてくる。犯人捜し、感染者を非難しているようにも聞こえ、恐怖を覚える。
「また聞きのまた聞き」のような噂話をされるのかと思うと、自分が感染者やその家族になっても、居住地も職業も絶対に公表しないと決めている。「自分が感染者になり、噂を立てられる側になったらどんな風に感じるのか想像しないのが不思議。どこの誰だか分からない人に対してなら、何を言ってもいいのか」
家族が濃厚接触者だったことは、ごく親しい友人にしか打ち明けていない。「なぜ検査を受けることになったのか」という話に尾ひれがつき、どんな噂を立てられるか分からないからだ。「秘密にしているから分からないだけで、噂話を聞かされている人が、感染者の身内ということだってある。ひどく傷つけることになる」
感染した人も、ウイルスが検出されなくなると、社会に戻る。不幸にしてかかった病気から、無事回復した元感染者や家族を温かく迎える社会であってほしいと願っている。
「コロナが怖い。コロナより周囲の目が怖い。コロナも周囲の目も怖い―。いろんな人がいる。感染者だけでなく、医療従事者らも含め、コロナの近くにいる人たちが差別されることがないようにしないといけない」と話している。
【おことわり】
濃厚接触者本人に取材を打診しましたが、「そんな気持ちにはなれない」と、取材はかないませんでした。代わって取材に応じて頂いた家族が個人を特定されないよう、配慮しています。