兵庫県丹波市内で大粒系ブドウが実りの季節を迎えている。後継者がおらず、閉園の瀬戸際に立たされていた同市青垣町東芦田のブドウ園「宝珠園」は、アルバイトの主婦3人が販売だけでなく生産も担って園主の娘を支え、園を存続させた。「まだ早い」「こっちの方がおいしい」。味に厳しい女性が、もぎたてブドウを元気に販売している。
2004年に園を開いた園主の芦田則夫さん(79)が体力的に栽培を続けるのが難しくなり、3年ほど前に「閉めるなら今」という話になった。「楽しみにしてくれるお客さんがいるし、園ももったいないし」と、行きがかり上、娘の真穂さん(41)が跡を継ぐことになったものの、育児の傍ら栽培を手伝う程度で本格的な栽培経験はなく、「8000房がなる園を1人で管理できない」と、途方に暮れていた。
販売担当で、植物好きの徳田聰世さん(同町)が、生産を手伝ってもいいと言ってくれたことで栽培を続ける道が開けた。それでも、昨年、おととしは客に「今年で最後かもしれません」と弱気なあいさつを続けた。
主婦仲間の人づてで今年新たに果物好きの永瀬水晴さん(同市氷上町)が生産に加わり、3人で、則夫さんに要所を教わりながら、土づくり、雨除けのビニール張り、芽かき、摘粒、袋がけと、一生懸命育てた。
徳田さんと永瀬さんは、家庭菜園程度で、農業も果樹栽培も未経験ながら、「エアコンの効いた部屋にいるより畑にいる方が楽。好きな植物に触れ、全然苦にならない」(徳田さん)、「技術は見よう見真似の域にすら達していないけれど、1房1房違っていて面白い」(永瀬さん)と、興味とやりがいを持って栽培に挑戦。図書館で本を借りたり、動画サイトで管理のこつを学ぶなどし、生後半年に満たない子を含む5児の世話であまり農園に出られない真穂さんを助けた。
真穂さんは「続けられないと思っていた園が、主婦ネットワークに助けられ、存続できた。暑いときに先輩方にしんどい思いをさせて申し訳なく、感謝している。栽培知識は私以上で、味に厳しい先輩たちにどうか先々までお世話になりたい」と引き続きサポートをお願いしている。
徳田さんを真穂さんに紹介し、園存続に一役買った、販売担当のベテラン、柴環さん(青垣町)は、「私はそんなに深刻な問題と思ってなかった」とあっさり。「今年も真穂ちゃんに赤ちゃんが生まれて、子守りをしながらにぎやかにやっています」と笑っていた。
7種のブドウが植わっている。例年、一番早い紫玉より先にブラックビートが完熟した。ちょうどフジミノリの味がのってきて、ゴルビー、ハニーシードレス、ピオーネ、瀬戸ジャイアンツと10月末まで収穫が続く。自信はなかったものの、跡を継ぐことを決めた年に植えたシャインマスカットは来年、初収穫を迎える。