コロナ差別防ぐ”心のワクチン” 愛媛発「物申さないリボン運動」 取り組み拡大に代表の思いは? 「”ただいま、おかえり”と言えるよう」

2020.08.28
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運動に賛同し公用車80台にマグネットステッカーを貼った愛媛県宇和島市社会福祉協議会

新型コロナウイルスの感染者や家族、医療従事者らを差別しない雰囲気をつくろうという思いを込めたリボンを身に着ける、愛媛県松山市発祥の市民運動「シトラスリボンプロジェクト」が全国的な広がりを見せている。キャッチコピーは、「ただいま、おかえりって言えるまちに」―。リボンを作って身に着けたり、身近な人にプレゼントしたりする。「差別をやめよう」と声高には口にしない穏やかな運動を始めた団体の共同代表、甲斐朋香・松山大学准教授(49)に、運動を始めた思いや運動の広がりの受け止めを聞いた。

―運動の中身を具体的に

3つの輪のリボンを作り、自分で身に着ける、身近な人にプレゼントする。リボンを身に着けることが運動への賛同を表す。リボンの輪には、「地域」「家庭」「職場(学校)」の意味を持たせている。伝統的な組紐(くみひも)技法「叶(かのう)結び」で作っているが、結び方にはこだわらない。結ぶという、あえてひと手間をかけることが良かったのかなと思う。

メンバーに結び方を教わり、シトラスリボンをつくる児童たち

―運動を始めたきっかけは

3月に愛媛県で最初の感染者が出た。その方が差別され、気の毒な目に遭っているという話が聞こえてきて、「悲しいね」「ひどいね」と憤っていた。あわせて、誹謗中傷は本人が一番傷付くけれど、地域にとってもダメージがあるとも思った。感染者はいずれどこでも出ると思ったし、そのときに誹謗中傷などがあり、「あそこの地域は怖い」となることは、感染者が出た・出ないということよりも、地域イメージを左右するだろうと考えた。

地域の中にも、「差別的なことはいかん」という空気があることに気付いた。感染者の近くに住む柑橘農家さんが、SNSで「感染者が一番不安。回復を見守りましょう」と発信していたり、知人も自分たちの地域でもいずれ感染者が出ると考え、“ワクチン的”に差別をしない雰囲気をつくろうと、ステッカーを作ったりしていた。

「差別、詮索、批判をする人を何とかしたい」「声に出さなくても伝わる『安心の目印を作りたい』という思いだけでメンバーになってくれる人に声をかけ、6人で運動を始めた。今は仲間が9人に増えた。

松山市から「Zoom」でインタビューに答える甲斐さん。えり元につけているのがシトラスリボン

―運動が全国に広がっている

私たちと同じように、「誹謗中傷や差別は良くないよね」と思った人が、大勢いたということ。運動に参加する敷居が低かったこと、誰かに物申すものではない点も良かったのかなと思う。差別をしている人に異議を唱えるのは勇気がいる。この運動はリボンを着けるだけで、誰も攻撃しない。

ありとあらゆるところでリボンが使われ、運動が広がっている。空港職員、車販売店、パン店、プロパンガス販売店、社会福祉協議会…。リボンを着けた人をまちで見かける。学校の授業に行かせてもらい、メンバーがゲスト講師としてリボンの結び方を教えたりしている。ネイルアートの素材になったり、かまぼこになったり、お坊さんの法衣のワンポイントデザインになったり。リボンのデザインの力か、「意識高い系」の人たちの間にとどまっていないのがいいなと思う。

―運動の成果として、差別や誹謗中傷は減っているか

改善しつつあるが、道半ばだと思っている。この運動は、行動の道筋というか、歯止めをかける方向性を示してはいるが、完全に止めるまでの力はない。それでも、ないよりはあった方がましだと思っている。

―兵庫・丹波地域(本紙の発行エリア)でも噂話が絶えず、当事者たちは心を痛めていているし、温かい地域にしたいと考えている人がいる

「大変な目に遭った人へのケアを」という運動が広がればと思う。私たちみたいにリボンを着けてもいいし、別の形でもいい。「ただいま」「おかえり」と言える空気が広がれば。

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