標語・スローガン愛好家の世界で、6―7万点という応募数の多さから最難関の一つに数えられる「全国交通安全運動」の年間スローガンで、最優秀賞の内閣総理大臣賞を前人未踏の4度受賞。獲得した表彰状は500枚を突破した斯界の巨人・村岡孝司さん(78)=兵庫県丹波市柏原町柏原=に、制作の現場を見せてもらい、作品をつくるコツを教わった。年間20―30回入選する名人は、言葉が天から降って来る天才肌でなく、研究を怠らない努力の人だった。
ホテルマンだった27歳の時に、地元の氷上郡交通安全協会の標語で初入選。その後も応募を続け、ある時、気付いた。「世の中のコレクターの大部分は、お金を出して物を収集している。私の趣味はお金では買えない」
現在は毎日午後から夕方にかけて2、3時間作品を作り、夕食後も2時間ほど制作に励むと言い、常に締め切りに追われている。「好きな事なので、苦にはならない」。アンテナを高くし、日々ニュースを追っておく必要もある。「そうこうしていると、結構毎日忙しいんです」と、充実した生活を送っている。
年間70―80のコンクールに応募。半数ほどは、毎年募集があるものという。「ゼロから作っていると思われがちですが、そうでもないんですよ」とノートを取り出した名人。前年に応募した作品が、1点ずつ丁寧に整理されている。
「前の年に応募した作品を点検して、五七五の順番を入れ替えたり、推敲して、ある程度つくります。捨てがたいものは、そのまま応募することも。クイズと違って正解がなく、審査員が一部入れ替わることもありますから」
既存作品のリニューアルの後、新しい感覚で作った作品を加えていく。自身の作品が採用されなかった場合もノートに結果を貼り、ライバルが作った採用作を鑑賞し、分析する。
コンテストの応募は、雑誌「公募ガイド」のほか、インターネットで探す。ネットで検索中に新しい用語と出会うことがあり、気になった語句をメモして語彙(ごい)を増やしている。
「ネット社会になって、昔よりコンクールの数が増えた。若い人が今から始めたら、私よりたくさん賞に入る人が出るかもしれない」と笑う。また、メールで応募ができるものが増え、はがき代が助かっているそうで、以前は100枚単位ではがきを買っていたという。
力を入れている全国交通安全運動のスローガンは、500点ぐらい作り、300点ほどを選んで応募する。印刷所でつくってもらった私製はがきに1点ずつ作品を書き、何十枚かずつ封筒に入れて送る。事務局がどんなふうに集計し、審査しているのか知らないが、「まとめて一度に大量に送るより、分けて送った方が目につく回数が増える気がする」。太いペンで丁寧に書くように心がけている。
これまでの獲得賞金の最高額は10万円。若い頃は知らない土地に行くのが嫌いで、新婚旅行にも行かなかった。しかし、表彰式に招かれるようになってから、旅行が好きになった。表彰式ついでに妻と名所を訪ねるのが楽しみという。
優秀賞だった和歌山県の「熊野川のキャッチフレーズ」は、副賞が賞金10万円と2泊3日の旅行。那智の滝まで足を延ばしたそうで、良い思い出になっている。家の中には副賞でもらった各地の民芸品、マスコットキャラクターなどがあふれかえっている。
「マニアの中には賞金狙いだったり、大きな賞しか狙わない人もいるが、私は副賞目当てでなく、作品が選ばれることが純粋にうれしい。仕上げた作品が多数の中から選ばれ、ポスターやチラシになって多くの人の目に触れる。少しでも社会の役に立てるのがうれしい」と屈託がない。
現在、入選回数は957回。次の目標「入選1000回」にもう少しで到達する。
◆村岡さん直伝、作り方のコツ◆
・過去の入選作の傾向を調べる
・分かりやすさ、読みやすさ、覚えやすさ
・できるだけ命令口調は避ける
・漢字とひらがなをバランスよく
・募集要項をよく読み、主催側の要望を理解する