きょう20日から「動物愛護週間」が始まる。江戸時代、生き物を愛護する目的で制定された諸法令「生類憐みの令」の下で、村人が飼育していた牛の特徴などを記した古文書が、兵庫県丹波市市島町上竹田の加茂神社敷地内の公民館に保管されている。所有者名や頭数とともに、「くろ牛」「あか牛」「まだら牛」などと毛色を記しており、誰の牛か判別できるようにすることで、村人が牛を粗末に扱っていないことを示している。
所有者と毛色を一覧に
同公民館に保管されている古文書を、同市文化財保護審議委員の山内順子さんが調査。山内さんによると、1688年(貞享5)6月、上竹田村が領主の家臣に宛てて書いたもので、法令に対して油断しないことを誓うとともに、「犬は所どころにたくさんいるが、少しも粗末にしていません」と現状を報告している。
さらには「馬やその他の生類が死んでいないうちに捨ててはいけない」という命令に触れ、上竹田村は牛が多くいるため、馬と同様の扱いとし、大切に飼うとともに牛の特徴などを記した「毛付帳」を作成すべきと心得ているとしている。「大小百姓が残らず書付け捺印した手形(書面)を差し上げる」とし、牛の特徴や頭数、持ち主を記した書面を提出するとしている。
続いて、上竹田村における牛の特徴や持ち主などを記した一覧を記載。「庄屋」「年寄」「小百姓」といった立場も書かれている。46人が計36頭を所有し、内訳は「くろ牛」30頭、「あか牛」3頭、「まだら牛」3頭。複数人で1頭を所有しているケースもある。
山内さんは、村人が馬ではなく、「その他の生類」である牛について記載している点に着目し、「『自分たちが大切にしているのは牛なので』と解釈し、牛のリストを作成しており、誠実さ、賢さのようなものを感じる。一方、公民館に保管されている別の文書には、関東で病馬を捨てた人が島流しになったという内容の記載がある。幕府や法令に対する畏怖があって、牛の一覧を作成したのかもしれない」と推測する。
「生類憐みの令は教科書にも記載されていて有名。江戸など中央での出来事のように考えてしまうが、丹波のような地方にも趣旨が伝わり、それに対して村人が対応していたことが分かる資料は貴重」と話している。
◆「生類憐みの令」
江戸時代前期、5代将軍徳川綱吉の治世で制定された諸法令。捨て子や病人、犬や猫、鳥、魚類、昆虫類など「生きとし生けるもの」を保護の対象とした。違反者には厳罰を科したともいわれ、「天下の悪法」と断罪される一方で、人々の道徳観を強めたとの再評価もある。綱吉は、中でも犬を愛護し、江戸に犬を収容する広大な屋敷を建設したことなどから、「犬公方(いぬくぼう)」と呼ばれる一因になった。