新型コロナウイルスの拡大に伴い、「密」になることを避けたり、遠方への移動を自粛したりするなど、生活様式が目まぐるしく変化する中、その余波は、地域住民と密接な関係を築いてきた仏教界にも及んでいる。密を防ぐため、「家族葬」がスタンダードになり、法要後の会食もほとんどなし。年忌法要の延期も増えた。また一部では遠方の家族がインターネットを用いたテレビ電話システムを使って、法要に「リモート参加」するケースも出始めているという。兵庫・丹波地域の寺院に現状を尋ねた。
最新の技術に人の心合わせ
取材した寺院の全てで読経の際にマスクを着用したり、法要後の会食を行わず、茶も遠慮するなど、寺、各家庭共に感染予防策に気を遣っている。葬儀は家族葬、年忌法要も延期しているケースが多く見られた。ある住職は、「会食がないことで、地域のお店はかなり大変だと思う」とおもんぱかった。
「先日、初めて法要にリモートで参加される檀家さんがありました」と語るのは大勝院(同県丹波篠山市味間南)の廣田実光住職。年忌法要を寺で営んだ際、県外の家族から、「県を超えての移動ははばかられる。リモートみたいなことができませんか?」と打診された。
本堂内にパソコンを持ち込み、ネットを使って法要の様子を中継。「とても喜んでもらえた」とほほ笑む。
廣田住職によると、リモートではないものの、5月の緊急事態宣言中には、関東にいる檀家から、「寺には行けないが、法要はやってほしい。法要が始まる同じ時間に家族がそれぞれ自宅の仏壇の前で手を合わせます」と”心のリモート”もあったという。
廣田住職は、「やはり実際に集まって故人の人生を称え、親戚や村の人々と旧交を温められるように戻ってほしい」と思う一方、「もしかすると、リモートがスタンダードになる可能性もある。コロナが終息しても、例えば体が自由に動かないことなどで法要への参加をあきらめていた人が、リモートを活用して参加できるようになれば。最新の技術と人の心を上手にマッチングしていきたい」と話す。
豊林寺(同市福井)の北野諦圓住職もリモートでの参加を経験した。
「外国に住んでいるご家族が、『コロナで帰れないから』とスマホのテレビ電話で参加されていました」と話す。お盆に行った棚経でも、茶を遠慮したり、なるべく滞在時間を短くしたりしたという。
桂谷寺(丹波市春日町野上野)でも、参列者の一人が、コロナで法事に参加できない遠方の親族のため、スマホの機能を使って読経の様子を“生中継”していたという。
例年、初盆を迎えた檀家が8月の「施餓鬼」に参加しているが、檀家に了承を得て1軒につき5人までの参列とした。遠方の檀家から、「お寺ではどのような対策を取っていますか」という問い合わせもあったという。
年末にかけ、托鉢や法要を控えており、荒樋昇誠住職は、「今年に限っては仕方のないことだが、先が見通せず、どうなっていくのか分からない」ととまどう。
例年、夏の棚経で京阪神地区の檀家宅を訪れている清薗寺(同市市島町下竹田)の近藤丈夫住職によると、半数ほどの檀家から「今年は遠慮したい」という申し出があり、相談した上で取りやめた。
行事の大切さ 故人つなぐ縁
例年、檀家が集まる施餓鬼では法話なども行っているが、今年は午後に1時間ほど読経している間に随時参ってもらい、それぞれ焼香などをしてもらって長時間の滞在を避けてもらうよう促した。
「今年は3月ごろから例年通りの行事ができておらず、寂しい1年。節目の行事がいかに大切だったかを感じる」と話す。
長楽寺(丹波篠山市郡家)の安達瑞樹住職は、「お寺はやっぱりアナログを重要視している部分もある。法要に人が集まるのは故人がつないでくれた縁。リモートであっても参加したい、手を合わせたいという人の気持ちはコロナ禍でも変わっていないのでは」と話す。
一方、別の住職は、「これまでと変わらず、葬儀にたくさんの参列があり、中には東京から参加したという人もいた」と言い、「こちらが逃げたくなりました」と苦笑いを浮かべた。
ただでさえ、人口減少や檀家の高齢化、住職の担い手が不足し、「寺院崩壊」の危機が叫ばれる昨今。そこにコロナ禍が直撃している。
しかし、前出の廣田住職は、「危機ではあるものの、リモートワークが始まったことで、都市部からのU・Iターンも出始めている。東京一極集中が変わることで、地方のお寺を支えてくださる人も出てくるかもしれない」と期待している。