京都大学大学院農学研究科3年で、環境デザイン学を研究している菊川裕幸さん(31)が、兵庫県丹波篠山市内にある竹の量について調査を進めている。竹林面積は年々増加の一途をたどり、景観上の観点からも”邪魔者”の印象が根強いが、竹は肥料として活用できるなど有益な面もある。菊川さんは、「メリットがあることは分かっている。資源となる竹が『どこに、どれくらいあるのか』を知ることで、さらなる活用への道筋にしたい。丹波篠山が竹を使って循環する”竹型社会”になるきっかけになれば」と話している。
高齢化で放置竹林増 生物多様性でも問題
所有者の高齢化などで放置される竹林が全国的に増えており、景観面のほか、竹林が侵食することで他の植物が育たなくなるなど、生物多様性の面からも問題となっている。山際の竹が拡大し、畑に侵入したり、文化財が壊れるケースもある。
水稲栽培の土壌改良などメリット数々
数年前まで農業高校・県立篠山東雲高校で教員を務めていた菊川さん。同校勤務時代から生徒や地域住民と共に放置竹林の解消を目指して資源活用を進めており、▽水稲栽培への活用▽雑草抑制のマルチング材▽鶏の飼料▽汚泥を活用した乾肥の消臭剤▽丹波焼の焼成材―など、さまざまな活用法を生み出し、一定の効果を確認した。
水稲栽培の試験では、化学肥料を用いた栽培と比較して収量はほとんど変わらず、食味値は竹肥料を用いた方が高いなどの結果が出た。竹にわずかに含まれるカリウムや窒素などが作用したというよりは、付着した乳酸菌によって土壌改良につながったと推測しており、「どこにでもある竹を粉にしただけ。コスト削減だけでなく、環境に配慮した農法として売り出せる」と太鼓判を押す。
竹が農業や産業に活用できるという”出口”が分かったことを受け、「石油などのように『資源』として管理・活用できないか」と考え、”入口”となる「竹の賦存量」(資源になる竹がどこに、どれほどあるかを推計した量)を調べる研究に着手した。
年々拡大の一途 150本で田6反分の肥料に
市の協力を得て1999年と2016年の市域の航空写真の提供を受け、「GIS」(地理情報システム)を活用して竹林の面積を調査。99年は約186万平方メートルだったのが、16年には約225万平方メートルになっており、17年間で39万平方メートル増加していることが分かった。
竹林の個所はいずれも約2000カ所だったが、1カ所の竹林面積の平均を見ると、99年は約970平方メートルだったのが、16年には約1159平方メートルになっており、大規模化が進んでいるという。
賦存量を推計する上で、面積のほかに必要になるのが竹の長さや重量。東雲高時代の教え子や住民の協力を得て、2日間かけて、同市南新町の竹林で調査を行い、100平方メートルでモウソウチク約150本を伐採し、それぞれの長さと重さを調べた。
結果、総重量は約6トン。1本あたりの平均は長さ20メートル、重さ約45キロと分かった。
水稲栽培に竹粉を用いた際は1反当たり1トン使用したため、今回の伐採で6反分を得られることになる。
賦存量の正確な数値は今後割り出す予定。
菊川さんは、「竹は森林資源の中ではずば抜けて成長が早く、再生もする。資源という観点で見れば、すごいもの。丹波篠山は農業が盛ん。竹を使うことで、地産地消にもなるし、おもしろみにもなる」と話す。
ただ、「数人がかりで2日かかる作業。個人で整備するのは限界がある。自治体や地区単位でないと無理」と言い、「研究結果を市や地域と共有し、地域ぐるみでの竹林の管理と資源としての活用につなげられたら」と話している。