兵庫県丹波篠山市特産の黒枝豆などが旬を迎えた10月、丹波篠山観光協会の調査などで、城下町地区に約58万人の観光客が訪れたことが分かった。市によると、過去最多の人出とみられる。例年10月は、黒枝豆をはじめ、栗やマツタケなどの秋の味覚を求める人々でにぎわいを見せるが、今年はコロナ禍中。恒例の「丹波篠山味まつり」を中止したにもかかわらず、京阪神などから「近過ぎず、遠過ぎず、コロナがまん延していない観光地」として選ばれたようだ。
これまで施設来場者数などによる観光客入込数を調査してきた市は今年度、味まつりを中止したことによる観光動態の変化や、より実数に近い客数を調べるため、観光協会に新しい手法での調査を依頼した。
協会は毎週木、土、日曜日の午前9時―午後4時までの間、城下町地区にある大正ロマン館前で、1分間に視界に何人が入ったかをカウントし、60倍して1時間当たりの人数を割り出した。調査していない平日は木曜日の人数を当てはめて観光客数を割り出した結果、58万人という数字になった。最も人出があったのは18日で、約4万8000人だった。
市や県がこれまで行ってきた調査と手法が違うため、単純に比較できないものの、昨年10月の県の調査は53万人、市の調査では41万人。「肌感覚でも、明らかに昨年よりも多かった」(市担当者)と話す。
市営駐車場は約5万3000台の利用があり、昨年と比べて5000台増。曜日や時間帯によっては満車になり、駐車場付近に渋滞が起きることもあった。観光バスも復調を見せており、昨年より台数は多かった。
市商工観光課や観光協会は、増加した要因について▽GoToトラベルを使って有馬温泉や城崎温泉などに訪れた人が、行きや帰りに立ち寄った▽秋の味覚が旬を迎えたことをテレビなどで取り上げられることが多かった▽学生の社会見学や修学旅行などが増えた―などと推測。「もともと秋の味覚で丹波篠山にとっては最も観光客が多いシーズン。そこに適度な距離にあり、なおかつコロナがまん延していない場所という条件に見事にはまった。社会情勢が人を呼び込んだともいえる」(観光協会)と話す。
ある商店主は、「味まつりでは会場で食事をする人が多かったけれど、今年はそれが全て地域の飲食店に流れている。忙しいし、コロナの対策は大変だけれど、恩恵を受けているのは確か。味まつりがなくてもやっていけるかも」と話す。
一方、ランドマークの篠山城大書院は昨年と比べて入館者数が減少した。眼下の三の丸西駐車場には車があふれかえったが、「大書院を行程に入れたバスツアーが減ったことも大きいが、車を降りた人たちは城下町などに黒枝豆などを買いに行く人が多く、大書院まで上がってきてもらえなかった。9月のシルバーウイークは過去最多級の人に訪れてもらったが、秋は黒豆に持っていかれた」と、特産の力に舌を巻く。
観光協会は、「味まつりを中止し、オンラインショップを立ち上げるなどして、『家におってぇな』と呼びかけたのにこの人出。これから山の芋やぼたん鍋のシーズンになるので、今後もこの傾向は続くのでは」とし、「これだけ多くの人が訪れてコロナの感染が広がっていないのはラッキーとしか言いようがないが、検温や消毒などの感染対策をするしかない」と話す。
ただ城下町地区にはそぞろ歩く観光客が急増したことで、歩行者天国のようになったこともあった。市は毎週末、交差点4カ所にガードマンを配置するなど対応を取ったが、一部の住民からは、多くの観光客や車が「生活に支障をきたす」などの理由で通報するケースもあったという。
市は、「今後も同じ状況になる可能性がある。住民の生活道路でもあるため、ガードマンを増やしたり、観光客の分散を考えたりするなど、何らかの対策を検討していきたい」と話している。