兵庫県丹波市長、市議会議員選挙の投開票が15日にあり、市長選で無所属新人の林時彦氏(66)が、自民党・公明党推薦の現職、谷口進一氏(67)、無所属新人の岩崎政義氏(65)を下し、初当選した。林氏は統合市庁舎の建設凍結、ごみ袋を半額に値下げする公約のほか、告示日に、コロナ対策として市民1人あたり5万円給付のサプライズ公約を発表、静かな旋風を巻き起こした。投票率は、共に65・35%。林氏は開票から一夜明けた16日、記者会見で市長就任を前に抱負を語った。
―公約のうち何から手をつける
コロナ対策の市民1人あたり5万円給付は、年度内に支給したい。財源は庁舎建設の基金(約24億円)と、市のコロナ基金などを充てることを考えているが、財務部長らと相談する。細々した施策をしても、(対象になるならないで)公平でないし、それぞれに事務費がかかる。閉塞感がある丹波市に元気になってもらう。
ごみ袋の値下げは、来年4月から。デマンドバスの県立丹波医療センター(同市氷上町)直行便運行は、(同市)市島町で実験をと考えている。朝一番に1便出し、ニーズや問題点を調べる。
―統合新庁舎は
造る方向にはいかない。民意は新庁舎不要と判断した。本庁舎(同市氷上町)は8年後に50年の耐用年数がくるが、耐用年数がきたから即つぶれるわけではない。今の庁舎を使い続ける。
―谷口市政で立案された計画は
たくさん計画がある。それこそ財政計画がどうだったのかを含め、中身を見て、良いところは取り込む。
―議会対応は
議長職時代に「議員も勉強しないといかんで」と苦言を呈してきたが、政策論争になっていなかった。政策論争に期待する。反問権も使って、議論を深めたい。
―庁舎は必要という議員も多く、基金の取り崩しに反対されたら5万円給付は難しいのでは
真摯に議会と話をする。「庁舎は要らない、コロナ対策で5万円を給付する」とはっきり書いて、投票者の過半数の民意をもらった。「民意じゃないですか」と言いたい。
―職員への対応は
「子どもに帰って来いよと言えるまち」が、究極の目標。市役所には職員が1200人いる。予算600億円の市内で一番の大きな会社。この会社が売るのはサービス。この会社が元気にならないと市民サービスはよくならない。サービスを売るどころか、不祥事を起こしていたのではどうしようもない。市役所自体が元気にならないと。
「お天道様が見とってやで」と思って、誠実に、ちゃんとすることはしよう。それがどこまで通じるか分からないが、気持ちを届けたい。
―どんな市長を目指す
市民、職員の話を聞く市長になる。聞き上手だと自分では思っている。趣味の早朝黒井城登山は休日や、夜明けの早い夏場は続けるつもり。山頂まで登って来てとは言わないので、麓の駐車場で声をかけてもらえれば。
現職谷口氏「残念でならない」
開票日の午後10時ごろ、陣営関係者から林氏の当選確実の一報が伝えられると、谷口氏はひきつった表情で支持者の前に姿を現した。
「大変残念なご報告をせねばならなくなりました」と敗戦の弁を切り出した谷口氏。コロナ対策として全市民に5万円を給付するという林氏が掲げた公約について、「トリッキーというか、奇妙で意表を突く公約。果たして、こんなことがまかり通っていいのだろうか」と語気を強めた。
続けて「行政としてしてはならない禁じ手だと思った。財政負担や市民サービスの低下、職員の負担につながる。意味がない。私は立会演説会で『詐欺の公約だ』と言い切った」と言い、実現性に疑問を投げかけた。
林氏がこの公約を8日の出陣式で初めて公にしたことに触れ、「(林陣営の)選挙戦術は巧妙だったと思う。1カ月前にこの公約が発表されていれば、もう少し議論の場があり、みなさん(有権者)も冷静な判断ができたと思う。冷静な判断がないまま、雪崩現象が起きた。選挙ってこういうものなのだという思い。私も選挙に関しては百戦錬磨ではない。そこは痛感した」と視線を落とした。
トップ交代が市政に与える影響について、「私から林さんに代わることで、10年、20年は遅れていく。申し訳ないが、これは断言する」と憂い、「民意は(林氏に)傾いた。ただし、民意と議会とはどうなるのか。議会は是とするのか、興味というより心配する。市長と議会との間でねじれが生じてしまうと、市政は前に行かない。車の両輪として、市長と議会は一つの目標に向かってベクトルを合わせて進まなければならないのに、確執や溝は深くなると思う」と述べた。
1期4年間や選挙戦を支えた人に感謝の言葉を伝えた後、「私の不徳の致すところだが、残念でならない。長い間、ご支援いただいたのに、申し訳ありませんでした」と悔しさをにじませつつ深々と頭を下げた。