ペンと猟銃の二刀流で 67歳、記者兼猟師 人の温かさ感じ赴任地に移住 「猟からたくさんのこと学ぶ」

2020.12.09
地域

記者であり、猟師としても活動している丸井さん=兵庫県丹波篠山市内で

静まり返った山の中、意識を研ぎ澄ます。無線機から「そっち行ったぞ」―。ガサガサと草木をかき分ける音。犬の鳴き声。けもの道から躍り出てきたシカに銃口を向ける。筒先の角度や獲物の背後の状況に気を付けて、放つ。「こんなに当たらんもんかと思いますわ」。67歳の“新人猟師”が破顔する。兵庫県丹波篠山市で暮らす丸井康充さんは、新聞記者と猟師という2つの顔を持つ。

1975年、技術職として毎日新聞社に入社。紙面製作システムの業務に長く携わり、2005年、「違う世界を見てみたい」と異動希望を出して記者になった。この時、53歳。同期は若者ばかりだったが、「我以外皆我師」の精神で飛び込んだ。「伊能忠敬も50歳を過ぎてから日本地図の制作を始めましたしね。ただ、知らないというのは恐ろしいことで、実際、現場に出ると大変なことばかりでした」

兵庫県の阪神支局をへて、姫路支局へ。事件、事故や選挙、街ネタなどさまざまな記事を書いた。いつ発生するとも知れない事象を追うのが記者。担当管内で一晩のうちに3件の火災が起きたこともあったという。大好きなお酒を落ち着いて飲める日も少なかった。

09年、丹波通信部へ異動。丹波市豪雨災害や丹波篠山市の市名変更を題材にした住民投票など、市史に残る出来事の数々にも立ち会った。

定年後の再任用期間も終わり、丹波を去るかと思いきや、丹波篠山市に居を構えた。「住みやすくて、おいしい食べ物もたくさん。飲み友だちもいるので」とにっこり。雪道で車が立ち往生した時、トラクターで助けてもらったこともあり、「人の温かさも大きい」とほほ笑む。高校生以来のラガーマン。日課のランニング中には老若男女が「おはようございます」と、あいさつしてくれるまちを大好きになった。

もう一つの理由が猟師だ。友人から「向いてるんちゃう」と猟師を勧められて好奇心に火が付き、昨年、狩猟免許を取得。市猟友会に所属し、猟に出るようになった。

「獣害や山が荒れていることは取材を通してい知っていた。実際、猟に出ると獣害に悩んでいる地元の人から、『何とかしてほしい』と懇願されることもある。地域のためになる活動だと実感しています」

シカを仕留めた経験は、自身にも大きな影響を与えており、「駆除したシカの目が真っ赤になっていることがあった。死んだシカの目玉をカラスが狙ったそう。生き物の世界では『かわいそう』などと言っていられなくて、自分が生きるためにどうするかだけ。猟から今まで知らなかったことをたくさん学んでいます。また、誰かが動物を処理してくれているから肉を食べられる。命を頂いていることを感じていますね」。

同社との雇用関係はなくなったが、特約通信員として月に数本は記事を書いている。「喜んでもらえる記事を書き、猟友会の足手まといにならないようにがんばります」と言い、「いつか自分が仕留めたイノシシで妻や家族にぼたん鍋を食べさせたい」とほほ笑んでいる。

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