厳しすぎる「但馬牛」の世界 最高級ブランドの基幹種雄牛とは トップ12頭入り巡る”戦い”

2021.01.09
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「丸春土井」の種をつけ生まれた雄子牛(手前)と雌子牛の世話をする山本浩さん=2020年12月27日午前10時27分、兵庫県丹波市春日町棚原で

今年は丑年―。黒毛和牛の最高級ブランド、但馬牛。人工授精で雌牛につける種(精液)を供給する雄牛「基幹種雄牛」は、兵庫県内に12頭いる。うち1頭、「丸春土井」は同県丹波市春日町の山本浩さん(77)宅で生まれた。昨年、「丸春」の子の肉の市場流通が始まった。食味性の良さが明らかになり、人気種雄牛となっている。今年は「丸春」の血を引く肉の流通が本格化、世界の食通をうならす一翼を担う。

兵庫県丹波市生まれの「丸春土井」(県北部農業技術センター提供)=2017年撮影

「丸春」は、2011年8月生まれ。県が指定する雌牛に、指定する雄の種をつける指定交配で、山本さんが飼っていた「みやこ」が産んだ。父は「丸宮土井」。山本さんが手掛けた6度目の指定交配で、丹波地域初の基幹種雄牛が誕生した。生後7カ月で県に買い上げられ、17年4月から精液を供給している。

県北部農業技術センター(朝来市)の岩本英治・畜産部長によると、基幹種雄牛の精液は、1頭の配布上限が年間4000本。「丸春は2000本ほど配布予定。上位5指に入る人気」と言い、「丸春の子は、食味性が非常に高い」と、味に太鼓判を押す。

「丸春土井」産子の枝肉(提供)

枝肉の成績から算出する「育種価」は、脂肪交雑(サシの入り具合)がAプラス、脂肪の細かさ指数(サシの細かさ)がA、口どけに影響し、牛肉のおいしさに関係する、脂肪に含まれる「モノ不飽和脂肪酸(MUFA)」もAランク。サシの強さだけでなく食味を追求する、県のねらいに合致する成果を上げている。

子牛繁殖農家の山本さんは、「丸春」の種を積極的につけている。「県の牛で、私の責任ではないけれど、うちから出た牛。やっぱり気になる」

肉牛が出てくるのを期待と心配が入り混じった気持ちで4年弱待っていた。「成績が良かったらええのになあと思っていた。安心した」。自身ができる範囲で、「丸春」の子の枝肉成績を調べている。格付け等級「A4―6以上」が「神戸ビーフ」の基準だが、丸春の子は、楽々越えており、最高格付けの「A5―12」も出た。「結果が出ると、使ってやろうという人が出てくる。人気が出て多くの人に使ってもらえたらうれしい」と穏やかに話す。

1月13日に但馬家畜市場(養父市)で開かれる子牛せり市に出頭予定の420頭のうち、31頭が丸春の子。「ひょうたん農場」(丹波市市島町)も、雌を競りにかける。同農場の須原秀次さん(34)は、「期待している。新型コロナウイルスで、和子牛の価格も打撃を受けている。また全体的に良くなっていけば」と期待を込めた。

基幹種雄牛に挑戦失敗は「と畜」

兵庫県の但馬牛雄牛のイメージ

兵庫県内の但馬牛の雄牛は、全て県が管理している。飼育枠は最大72頭。頂点が、厳しい選抜を突破した基幹種雄牛の12頭で、一部の例外を除き、神戸ビーフを含む県産但馬牛は、12頭のいずれかの血を引いた肉だ。

基幹種雄牛の下に、「待機牛」が28頭(1年7頭×4年勘定)、その下の「候補牛」が最大で32頭(1年16頭×2年勘定)。一般的に食肉の但馬牛は、雌と去勢。雄は子牛の間に去勢する。雄牛として飼われるのは、県が選んだ母牛50頭を指定交配させて生まれた雄のうち、候補牛になる16頭のみ。

昨年度に登録された県の和子牛は1万958頭。雄牛が半数として、99・97%は去勢される。

「候補牛」は、生後半年ほどで県に買い取られ、2歳になる年に7頭に選抜され「待機牛」となる。種をつけ、およそ4年後の産子の枝肉成績や血統などをもって、基幹種雄牛入りに挑戦する。入れ替え戦は、年に1度の県の改良委員会。毎年7頭の待機牛が挑み、3頭が入れ替わる年もあれば、ゼロの年もある。「トップ12」入りができなければ、と畜。若手に押し出された基幹種雄牛も、と畜される。

同じ基幹種雄牛が長く活躍することは、種雄牛改良の滞りを意味する。能力の高い若い雄牛を作り出すべく、関係者は日々努力している。

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