18歳のころ、治療法のない脊髄の病で頸(くび)から下の麻痺が残りながらも「車いすのモデル」として活動している兵庫県在住の日置有紀さん(31)が、上映中のホラー映画「樹海村」に「霊」の役で出演している。「障がいのある人に演じてほしい」という現場のオファーを受けて出演。日置さんは、「”障がい者を使うなんて”という意見もあるかもしれないと思うけれど、障がいがあるからこそ役にリアリティーが出るし、障がいがあっても映画に出演できることへの一歩だと思うので、私は大歓迎。ストーリー性も重視され、純粋に感動できる映画なので、ぜひ見に行ってもらいたい」と話している。
昨年2月に公開された「犬鳴村」に続く、“恐怖の村”シリーズの第2弾。「犬鳴村」は興行収入14億円、110万人を震撼させた。
「樹海村」は、人気女優の山田杏奈さんと山口まゆさんがダブル主演を務める。前作に続き、「呪怨」などのヒット作で知られるホラー界の巨匠・清水崇監督がメガホンを取った。
今作の舞台は富士の樹海。「コンパスが効かない」「一度入ったら出てこられない」などの話題が絶えず、人生の最期の場所に選ぶ人の多さでも有名な森の奥深くにある何者かが暮らす村。そして、「絶対に検索してはならない」としてネット上で語り継がれる呪いの箱。断ち切れない呪いがもたらす狂気と混沌の世界へ引きずり込む。
日置さんと映画監督の帆根川廣さんが共同代表を務め、映画を通した「心のバリアフリー」を目指す団体「バリアフリー・フィルム・パートナーズ」に出演オファーがあり、清水監督作品のファンだった日置さんは二つ返事で了承。期待に応えようと、セラピストからアドバイスを受けながら求められた演技を自宅で猛特訓し、「肘と膝がずるむけになりました」と苦笑する。
「樹海村」には日置さん以外にも障がいのある人が出演。清水監督は、「前作からのテーマで、“歴史の裏にある、恵まれなかった人や虐げられた人々”を描くにあたり、助監督から”障がいのある人の中にも俳優として出たい人がいる。キャスティングに採用すべきでは?”と提案され、感銘を受けてお願いした」という。
日置さんについては、「少しの出演時間にもかかわらず、遠方からの移動や身体能力のリスクを超え、リハビリをしてまで演出に応えてくれた。脇で必死になって支えてくれた人々の精神が映画の中に宿っているので、ホラーが苦手な人も、ぜひ劇場でご覧いただきたい」と話す。
映画館で自身の演技を鑑賞し、客の「キャアッ」という悲鳴がうれしかったという日置さんは、「障がいのある人をキャスティングすることは、現場をバリアフリーにしなければならないなどの配慮が必要で、大変だったはず。それでも使ってもらえたことがうれしかった」と振り返り、「車いすに乗る健常者の方の演技は、役は別にして、車いすユーザーからすると、”そんなこぎ方はしない”と思うものがあったり、ぎこちなかったりする。本当の障がい者を使ってもらうことで、映画に深みが出たら良いなと思う」と語る。
海外では障がいのある人のキャスティングはよくあると言い、「障がいへの理解が広がるきっかけにもなれば」と話している。