先日最終回を迎えたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で、兵庫県丹波市と同県丹波篠山市は、主人公の明智光秀が苦戦を強いられた「丹波攻め」の舞台として放映前から盛り上がったが、 “麒麟”は兵庫・丹波地域にやって来たのだろうか。関係者らの取り組みを振り返り、反響などを取材した。
NHKが2020年の大河ドラマを発表したのは2018年4月。丹波市、丹波篠山市など、兵庫県、京都府、福井県の11市町で構成する「NHK大河ドラマ誘致推進協議会」が2011年に結成され、26万筆を超える署名を集めるなど、7年間の活動が実を結んだ。
「大河」を機に観光客を呼び込もうと、丹波市、丹波篠山市ともにPRに力を入れた。国、県などの補助金も活用しつつ、丹波市は2019年度、20年度ともに約1300万円を予算化。丹波篠山市は19年度に約1890万円、20年度に約1350万円をそれぞれ大河関連で予算化した。
丹波市では、「光秀を一度は敗退させた武将」として、黒井城主の赤井(荻野)直正を強く押し出した。「直正をメインにしつつ、丹波平定後は光秀家臣の斎藤利三が黒井城に入り、下館(現・興禅寺)で生まれた娘のお福が後の春日局になるという一連のストーリーを、ゆかりのまちとしてPRしたかった」と、市観光課の藤原宏康観光振興係長。「直正」「光秀」「利三とお福」がそれぞれの面に描かれた高さ約5メートルの大看板を、395万円をかけて春日町黒井の国道175号沿いに設置した。
イラストは、地元のイラストレーター、中川英明さん(36)が手掛けた。歴史好きの中川さんが描くいきいきとした戦国武将らは、市のPRグッズにとどまらず、民間開発の菓子などにも使われた。「市民が一つのことに盛り上がる“アイコン”のような形で使ってもらえてうれしかった」と中川さん。
また丹波市は、道の駅「丹波おばあちゃんの里」内に19年7月、情報発信コーナーを開設。495万円の予算で黒井城跡紹介映像を制作した。同コーナーには、今年1月末までに約11万2000人が訪れた。藤原係長は「多くの人に立ち寄っていただけたと思う」としながらも、「コロナ禍もあって、十分な呼び込みができなかった。映像は今後も見てもらう機会を増やす工夫が必要」と話した。
一方、丹波篠山市では、光秀の母が八上城ではりつけにされたという“悲話伝説”を前面に打ち出すPR作戦を取った。光秀の母、「牧」のはりつけシーンを描いたのぼり、ポスター、チラシ、ホームページなどを作成。関連予算は314万円だった。この“切り口”に市民らからは「大胆でインパクトがある」「光秀と戦った地元の武将、波多野秀治を取り上げるべきでは」と、賛否両論あったという。
1996年の大河「秀吉」では、野際陽子さん演じる牧が、八上城ではりつけになるシーンが登場した。今回、牧は石川さゆりさんが演じたが、その描写はなかった。同市観光交流部の赤松一也部長は、「市長と共にNHK神戸放送局に何度も要望に行き、必ずこのシーンを取り上げてもらおうという意気込みでやってきた。期待していたので残念だったが、PRにはインパクトが大事なので、方向に後悔はない」とした。
丹波篠山市は一方、八上城のあった高城山の整備にも力を入れた。335万円をかけて主郭部8000平方メートルで約300本の木を伐採し、眺望を良くした。八上城だけでなく、籾井城、荒木城、般若寺城、八百里城の山城整備も行い、地元5団体に補助金を出す形で山頂や登山道を整備。また、2カ所の登山口に駐車場も新しく整備した。