今シーズンの狩猟期間が15日に終わり、兵庫県丹波市の鹿加工組合丹波(柳川瀬正夫組合長)の加工処理施設に、昨年度より219頭多い1748頭が持ち込まれた。捕獲されたシカを山に捨てず、施設に持ち込むことで有効活用につなげようと、狩猟者にメリットがある制度を県が始めたことで急増、組合関係者は「想定外の数」と目を丸くする。一方、受け入れ頭数の増加で、骨や内臓など産業廃棄物の処分費がかさみ、県の事務手数料でまかなえず、組合の持ち出しが続く事態が生じている。「ジビエ」ともてはやされるものの、可食部分が少ないシカ。2013年に設立され、シカ肉の有効活用処理施設を運営する鹿加工組合丹波は、生産者と消費者の間にあり、ビジネスとシカ有効活用の理念の狭間で悩んでいる。県内のシカ利活用先進地の丹波市の処理加工施設が直面している問題を考える。
背景に捕獲報奨金受給の手続き簡略化
2018年度に県が始めた「狩猟期の処理施設搬入促進事業」で搬入が一気に増えた。
同事業は、シカ捕獲報奨金の受給に必要な、狩猟者自身が捕獲個体の写真を撮り、切った尻尾を物証とする面倒な手間を、書類1枚に簡略化するもの。イノシシと違って、売り先が少ないシカは、尻尾だけ切って、山に穴を掘って埋めることが多かったが、認定施設に運べば埋設も不要。「シカの出口ができた」(県狩猟対策課)。
条件は、県の認定施設(14施設)に持ち込むこと。同組合が認定施設になったことで、持ち込みが増えた。煩わしい手続きが減り、より狩猟に集中できると歓迎されたからだ。
事業効果はてきめんだ。制度が始まる前の17年度と比べ、4年で1・7倍に増えた。17年度、市内で獲れたシカの組合搬入は約65%だったが、19年度には80%を超えた(20年度は集計中)。
同組合に持ち込まれたシカの約4分の1を占める同市市島地域。「獲るのがうまいベテラン猟師がいるところに、市島は鉄砲隊もわな猟師も増えた。獲物もたくさんいる」と、市猟友会市島支部長の近藤善紀さん(70)。市島地域で獲れたシカの大部分が組合に持ち込まれており、近藤さんも持ち込んでいる。「かなり助かっている。うちから組合まで往復40キロはあるが、運ぶだけで用事が済むので、楽」と歓迎する。
同組合が、1日の受け入れ目安を20頭に設定していることも搬入頭数の増加に関係している。20頭は、姫路市の施設の30頭に次ぐ県内2番目の規模。両施設以外は全て、1日の上限が5頭以下。少頭数に限定している施設は精肉利用を重視し▽わなによる生け捕りのみで銃猟は対象外▽個体重量30キロ以上―など、受け入れ条件が厳しい。
一方、同組合は、「仕留めてから原則2時間以内に搬入」と、条件が緩い。獲ったシカを有効活用する観点から、精肉のほかドッグフード用に販売するからだ。今季、1日で38頭を受け入れた日もあるなど、状態が悪いシカ以外は、無理をしてでも受け入れている。
昨年度、全県で捕獲されたシカは4万937頭(有害期も含む)。うち処理施設に搬入され、「有効活用された」のは約2割の8367頭。このうち約22%の1810頭が同組合分で、県鳥獣対策課は「大変貢献してもらっている」と感謝する。
同施設に搬入することで、市が県の報奨金7000円に2000円を上乗せした1頭9000円が、猟師に支払われる。
認定施設に持ち込まない、認定施設が地元にない、あっても小規模の地域の狩猟者は、従来通りの手続きを経る。報奨金は7000円で、埋設も必要だ。
同施設開所以来、シカさばきを担当し、獲物を持ち込んだ猟師と日々接している足立利文さん(71)は「組合にシカを持って来る人が増えた。若い人も増えた。たくさん獲っているのに、まだ増えるのが不思議」と言う。
それもそのはず。県の管理計画によると、今年度の捕獲目標は全県で4万6000頭。これだけ獲らないと、シカが減らない勘定だ。森林面積から割り戻すと、丹波市の捕獲目安は2681頭。実際に捕獲できた数とのかい離は大きい。
仮に捕獲でき、猟師が組合に持ち込んだとして、組合は処理が可能なのか、また、組合から先の「出口」はあるのだろうか。