熊は高齢ほど大胆? 最新技術で野生動物調査 生態知り獣害対策へ

2021.03.05
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ユーチューブでライブ配信された「野生動物の生態を被害対策にリンクする」と題したシンポジウム=2021年2月27日午後零時55分、兵庫県丹波市柏原町柏原で

兵庫県森林動物研究センター(同県丹波市)がこのほど、「野生動物の生態を被害対策にリンクする」と題したシンポジウムをオンラインで開催した。事前申し込みのあった受講希望者(申込者数473人)に向け、動画共有サイト「ユーチューブ」でライブ配信。同センター研究員ら7人が、神出鬼没な野生動物の行動や生態を調査するのにGPS首輪や自動撮影カメラを使っていることなどを紹介、その調査結果から分かってきた哺乳類の生態や被害対策の事例などを発表した。

川を渡るクマGPSで追跡

横山真弓研究部長は「境界線を越えるツキノワグマたち―衛星GPSの追跡から」と題し、同県内を流れる円山川周辺や京都府県境で捕獲したツキノワグマ(以下、クマ)にGPS首輪をつけ、行動範囲や移動ルート、人の生活圏への接近の要因などを探った調査結果を報告した。

兵庫県のクマは一時、絶滅が危惧されていたが、約20年間の保護政策により、かつて100頭以下と考えられていた個体数が、800頭前後にまで増加。これまでに出没していなかった地域でも確認されるようになったとした。

同県では、円山川を境にクマを「東中国」と「近畿北部西側」の2つの地域個体群に分けている。同川に隔たれてくらしてきたため、遺伝的特徴が異なり、頭骨の形状も違っていることなどが明らかになってきた。

GPSの技術進歩により、位置情報を細かく把握できるようになったため、最近の調査では、クマが円山川をまたいで(渡って)行動するなど、境界線がなくなってきたことが確認された。川を渡り、活動中心エリア(コアエリア)の山へと入る際、人家や学校、商業施設が集中している場所を通った個体もおり、年齢が高い個体ほど大胆な行動をとるとした。

クマの利用標高は、雄が平均400―500メートル、雌は200―300メートルで、冬眠場所は、雄はこれより高標高、雌は低標高を使う。また、繁殖期(夏)は、雌雄共に低標高を利用する傾向にあることなどをデータで示した。

これらの行動特性を踏まえ、被害を防止するには、▽奥山にいる動物という既成概念は通用しない▽大胆な行動をとる個体がおり、夜間は人の生活圏を通過している▽雄の行動圏は非常に広く、山塊に押し込めておけるレベルにない▽新たな生息地に行動を広げ始めている―ことなどを理解しておく必要があるとした。

最後に、同県新温泉町で計画されている風力発電所建設を挙げ、「建設予定地にコアエリアがある。そこには今、人里に出没するようなクマはいないが、森林伐採など生息地を開発することでコアエリアが分断され、人里への出没が深刻化することが懸念される」とした。

獣害感情をモニタリング

山端直人主任研究員は、「野生動物被害への感情をモニタリングする」と題し発表。シカやイノシシの農業被害が深刻だった同県相生市小河集落に防護柵管理と加害個体捕獲の支援を行い、被害が減少することで住民の感情も変化し得ることを示した実証結果を紹介した。

同集落では、ワイヤーメッシュの集落柵が設置され、月2回の点検活動を実施してきたが、被害は大きく、収穫がほぼ不可能な農地もあったという。そこで、▽イノシシとシカの侵入路の解明▽箱わなによる集落主体の加害個体捕獲▽防護柵の管理継続―を中心に提案し、箱わなの技術向上を支援することで課題解決を図った。

その結果、捕獲数は3年間で約3倍に伸び、2019年には38頭を捕獲。箱わなを集落柵内部から外部に移設することで捕獲効率は大幅に向上し、農業被害額も約360万円だったのが18年には30万円、19年には5万円と大きく減少した。

被害感情を探るため、取り組みの前後で住民にインタビューし、頻出語を調べた。対策前には、▽柵から入られる▽被害▽増える▽ひどい▽捕れない―などという言葉が多くあったが、対策後は、▽被害▽減った▽捕れる―などの言葉に変化したという。

これら数年間にわたる取り組みから▽集落で主体的に箱わなを管理することにより、数多くの箱わなが管理できるようになる▽技術の向上で捕獲効率も向上▽設置場所と技術向上で集落の捕獲数は増加▽効率的な防護柵と、柵の管理と加害個体捕獲で被害は軽減―することが示せると締めくくった。

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