兵庫県丹波篠山市の「多紀連山」を形成する主要3峰の一つ、「西ヶ嶽」(標高727メートル)の山中に、丹波地域には自生しないとされている落葉広葉樹のコブシが1本、確認されている。発見者で篠山自然の会会長の樋口清一さん(84)は、「専門家は『自生種と断定できない』としているが、こんな山奥にまで来て、コブシを植える人はいないのでは。篠山の七不思議ということにしておきましょう」と笑う。
春先、丹波地域の山腹を彩る白い花。多くの人はこれを見て「コブシが咲いた」と言うが、それは誤りで、その正体は「タムシバ」。コブシと同じモクレン科の高木だが、コブシの分布は、近畿北部から東日本。ただコブシは春先、他の木々に先駆けて白く美しい花をたくさん咲かせるため、庭木としてよく植えられている。
西ヶ嶽のコブシには、車が駐車できる丸山貯水池から徒歩約1時間でたどり着く。渓流のすぐ脇に生えており、根元から大きく2つに分かれ、どちらの幹も胸高幹周り約60センチ。樹高は約20メートル。
樋口さんは20年ほど前の夏、友人と共にこの場所を歩いていた際、葉を茂らせたコブシを発見。葉の特徴から、すぐにそれと分かり、「とても驚いた」。念のため花を確認しておきたいと思っていたが、なかなか花の時期とスケジュールが合わず、今年になってようやく念願がかなった。
兵庫県立人と自然の博物館(三田市)で、植物生態が専門の藤井俊夫主任研究員(56)は、「庭木の種が鳥によって運ばれたと考えるのが自然だ。まず1本だけ生えているのが不可解。自生種なら周囲に同じ木が複数生えているはず」と話している。
タムシバとコブシを見分けるポイントは、コブシは花の付け根に小さな葉を1枚つけるのに対し、タムシバは花が散ってから葉が芽吹く。またコブシは湿った土地を好むが、タムシバは乾燥した尾根や山腹に生育する。