兵庫県丹波市で75歳以上の新型コロナウイルスワクチンの予約が始まって以降、予約センターに電話が殺到し、「つながらない」と、市民の大きな不満を招いている。大災害直後の安否確認やコンサートのチケット争奪戦で生じる、NTT西日本の通信制限がかかる状況が生まれている。市は65歳以上の予約受け付けを始める6月1日までに回線を増設する考えを示しているが、回線を増やせば、通信上の「渋滞」は解消するのだろうか。
災害後と同じ「集中」
記者は12、13日に代理で、電話で1枠ずつ予約を取った。その際、電話がつながらない4パターンを経験した。
このうち、(1)「こちらはNTTです」(2)「只今混み合っています」は、「輻輳(ふくそう)」と呼ばれる、NTT西日本による通信制限規制。(3)(4)は、ワクチン予約センターにつながっており、「輻輳」ではない。(3)(4)で「おかけ直し下さい」のアナウンスが流れると、「せっかくつながったのに」と落胆が強い。
同社によると「輻輳」は、交換機の一定時間内に処理できる能力を越える電話が集中することで発生する。「警察や消防などの通信に影響を与える恐れがあるため、必要に応じ制御する」と説明。つながるまで繰り返し電話をかけ直すことで、「輻輳」が増大する。
市の予約センターの回線は5つ、オペレーターは5人。「少ない」との批判がある。対象者は、約1万3000人だ。
市によると「5回線」の根拠は、予約センターを開設するにあたり、専門業者に取った見積りが「5」とあり、それを採用した。業者は、市の人口を考慮し、数字を弾き出したという。
回線数を増やすと、枠が埋まるまでの時間は短くなるが、電話が集中することに変わりはない。「こんな短時間で枠がなくなるなんて」と、怒りを増幅しかねない。
分散させるか、すくまで待つか
市が、予約を取れる期間を7日に制限する「7日ルール」を設け、1日に200―250人ずつ、少量毎日予約を取る方式を採用したことで、「予約を取らなければいけない」焦りの心理が強まり、より電話の集中を招いた側面はある。
少人数ずつ毎日予約を取る理由は複数あった。当初はワクチン確保の見通しが不透明で、一度に大量の予約を取るのが不安だったことに加え、接種が始まった早い段階で、医師会と協議の上、接種枠を増やしたい思いを持っていたことも理由だ。枠が途中で増えると、増えた枠に後から予約した人が「横入り」する形になり、市民の間で不公平感が生じるのを心配した。
まちぐるみ健診の経験から、1カ月、2カ月先の予約が取れるようにすると、「予約日を忘れる」人が増えることも懸念したと説明する。
「輻輳」を回避するには分散か、すくまで待つかだ。電話をかけることができる対象者をさらに細分化する、県外にコールセンターを外注するなど「別の予約電話番号」を新たにつくる、「電話以外」を使うことも分散につながる。
市のウェブ予約枠は電話より少ない。パソコンやスマートフォンが使えない人が不利になるからだ。ウェブやファクス、メールを使うと24時間無人で受け付けができるが、ウェブ同様、「使えない人」のことを考え、最も使える人が多い電話に重きを置いている。
市は、「つながりにくく、大変心苦しいが、電話しか予約手段がない人を中心に考えている」と理解を求めている。接種が進み、より若い世代の予約を受け付ける段階では、電話とウェブ予約枠の比率を見直すことを考える。
市が、増やす回線数は、そう多くはならない見通しだ。例えば回線を2倍に増強し、予約を2倍取りやすくしても、何十人もが一斉にかければ「輻輳」になる。
接種券手元に時間ロス回避
予約を取る側が、協力できることがある。予約の通話は1件おおむね10分かかっている。一人1分短縮すれば一日20人多く予約が取れる。時間をロスするのが、「接種券はどこだったかな」と、電話がつながった後で、探す人という。手元に接種券は用意しておく。
ウェブで予約を取った人が、もっと接種日を早めたいと、ウェブ予約を残したまま、予約を取り直そうと、電話をかけ続けることも混雑を招く一因になっている。
市は「オペレーターとのやりとりがスムーズに進めば、幾らか電話がつながりやすくなる。接種券と、接種日を記録するためのペンと紙を手元に置いておいてほしい」と話している。