地元ランナーの「20メートル」 思い胸に聖火リレー 「前向きにとらえたい」/兵庫・丹波篠山市

2021.05.27
地域

聖火をともす福本さん=2021年5月24日午後2時37分、兵庫県丹波篠山市北新町で

新型コロナ禍、そして緊急事態宣言を受け、無観客の上、1区間20メートルのみという特殊な設定で24日に行われた、兵庫県丹波篠山市にある篠山城跡での東京五輪聖火リレー。地元のランナーたちは、どのような思いを秘めて走り、抱いた気持ちはどうだったのか。それぞれにインタビューした。

 

この経験は「家宝」

周囲に手を振りながら走る信夫さん

「緊急事態宣言が出されている中で、聖火リレーができたことは本当にうれしく思う。この経験は家宝です」と万感の思いを抱くのは信夫大寿さん。

同県西宮市の出身で、阪神・淡路大震災を経験。結婚後に丹波篠山市に移住した。娘が旧福住小学校最後の卒業生で、PTAの部長として手作りキャンプを開催した際には、震災の経験から、寝床を段ボールで作ったりするなど、防災を学ぶ場も提供した。子どもたちと保護者が一致団結した経験に感動。「このような素晴らしい経験をさせてもらったこと、そして、自分を受け入れてくれた丹波篠山の人たちに恩返しがしたい」とランナーを志望した。

「本当に素晴らしい地域。今回の聖火も丹波篠山の良さを伝える機会になったのでは」と地元愛一色。一方で「大変な時期だが、コロナに打ち勝って、最高のオリンピックだったと言えるように」と期待する。

健康の大切さをアピール

聖火の受け渡しの後、デカンショポーズを決める石田さん(左)と福本さん

同じく尼崎市で阪神・淡路を経験した石田直子さんも特別な思いを持って聖火をつないだ。

結婚後、愛息が10カ月の時に癌を患い、幸福の絶頂から死の淵へ。なんとか克服したものの、再発におびえながら子育てや仕事に励んだ。

その後、丹波篠山に移住。「健康」の大切さが痛いほど分かっているからこそ、今では全国展開の女性専用健康体操教室のコーチ兼店長として会員を指導している。

「会員さんから『名誉なこと』と応援していただき、無事に走り終えることができてよかった。五輪がどうなるかという不安がある。でも、今は京都につなぐことができた」と胸をなでおろす。

「普通の人、しかも大きな病気をした人が走れたことで、健康の大切さをアピールできたら、『私が証明です』ってやつで」とほほ笑んだ。

ご当地温泉卓球「桶ット卓球」PR

前走者から聖火を引き継ぐ上村さん

丹波篠山市発祥で、風呂桶を使ったご当地温泉卓球「桶ット卓球」を推進している上村信博さんは、リレーを楽しむことはもちろん、「桶ット」をPRするという熱い思いを秘めて参加した。

リレーの空き時間には、感染対策に気を配りながら紀平梨花さんや武井壮さんに声をかけ、桶ットを紹介。「そんなのがあるんですか」と関心を誘い、武井さんは、「きっと僕は強いですよ」と百獣の王からの挑戦状を受けたという。

「桶ットの種まきができた。どこでどんなふうに芽吹くか楽しみだし、自分にとってもこれからの原動力になった」と豪快に笑う。

何もかもが急に決まった城跡でのリレー。それでも、「ゴムマットを敷くなど、とても意気込みを感じる会場だった」と感謝。「あとはアスリートのみなさんが一生懸命頑張ってくれることを願うばかり」と期待を寄せた。

同じ志の人々と「素晴らしい」

「丹波篠山ABCマラソン」で第35回大会から、女子未登録部門で3連覇を果たすなど、市を代表するアマチュアランナーの福本かおりさんは、最終ランナーという大役を務めた。

午後1時から始まったリレーの中で、丹波篠山勢が走った時間帯に最も雨脚が強くなった。「とにかく寒くて。点火した瞬間は、『あったかい』と思いました」と苦笑する。

重責も感じており、「緊張した」と言うが、「後にも先にもないこと。1年の延期もあり、待ち焦がれていた時間でもありました」と話す。

コロナのことはもちろん心配。ただ、トーチを持って走る機会があったこと、公道を走るという本来の形でなかったからこそ、同じ志を持った人々が丹波篠山に集ったことを、「素晴らしい」と感じたという。

「他市のみなさんにも丹波篠山の良さを知ってもらえる機会になった。いろいろあるけれど、前向きに捉え、これから良い方向に進んでくれたら」と先を見据えた。

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