田植え帰省「なし」が普通に? 悩ましい緊急事態宣言中のGW 思いそれぞれ「今年もあかん」「風評言わない」

2021.05.01
地域

市内で始まった田植えの光景=2021年4月30日午前9時42分、兵庫県丹波篠山市内で

新型コロナウイルスの拡大による3度目の緊急事態宣言が兵庫県にも発令される中でゴールデンウイークを迎え、同県丹波篠山市内では田植えシーズンに入っている。例年なら都市部で暮らす子どもたちが帰省し、労力を補っていたが、昨年と同様に帰省を控える人が多く、今年も労力は減るとみられる。ただ、昨シーズンを乗り切ったことから、ある農家は、「帰省の話題がなく、ゴールデンウイークに田植え帰省しないのが、『普通』になってきているのかも」。一方、「田植えは不要不急の用事ではない。感染には備える」という声もあるものの、専門家は、「帰省しない選択を」と呼び掛ける。悩ましい農家の声を聞いた。

市内の田んぼには水が張られ、トラクターで代かきに励む人や、さっそく苗を植える人の姿も見られる。

「昨年も帰ってこなかったし、今年も帰ってこない」と話すのは作業中だった70代の男性。水稲を9反栽培しており、毎年、都市部で暮らす息子夫婦たちが手伝いに帰ってきてくれていた。

「手伝いと言っても2、3日。頑張れば息子がいなくてもできなくはない」と言い、「今の感染拡大の状況を見ていると、『帰ってきて』とも言えないし、『帰る』とも言わない。ただ、今は自分たちでできても何年もは無理かな。早く収束してくれることを祈るしかない」と漏らす。

別の70代男性も大阪で暮らす息子の帰郷を止めた。「持病があるから、やっぱり感染は怖い。田んぼも大事やけど、命の方が大事。それに他府県のナンバーの車があったら、近所にも心配をかけるかもしれない」とぽつり。労力としての帰省よりも、息子夫婦や孫たちと顔を合わせ、みんなでバーベキューをすることが楽しみだった。「今年も嫁さんと2人でぼちぼちやります」と肩を落とす。

一方、80代の女性宅には、大阪から息子だけが3日間、帰ってくる予定だが、宿泊はせず、作業を終えたら大阪に戻るという日帰り帰省だ。

「息子の助けがないと、足を悪くしているお父さんと私だけでは無理。感染はもちろん気を付けないといけないけど、田植えはこの時期でないとできないし、不要不急の用事ではない。そう思っている農家は多いのでは」と力を込める。

加えて、「この1年、ずっとコロナのことを見てきた。一番怖いのは感染で、次に怖いのは風評。人の一番醜いところを見ている気がする。自分のところを棚に上げるわけではないけれど、他の家に帰省していても私は絶対、何も言わない」と話した。

最初の緊急事態宣言が出されていた昨年のゴールデンウイーク前、市は急きょ、地域の農政協力員に文書を通達し、労働力が不足している場合の作業委託ができることを改めて伝えた。

ただ、急な駆け込み委託はほぼなく、市農都政策課は、「みなさん『何とかされた』という印象。今年も委託が急増していることはない」という。

一方、作業委託を請け負うこともある大規模農家の男性は、「昨年の今頃は、『息子が帰ってこなかったらどうしよう』という話題が多かったけれど、今年は地域でも大規模農家の仲間の間でも全然聞かない。緊急事態宣言に慣れてしまい、当然のように帰ってくるのかもしれないし、昨年を乗り切ったことで、帰ってこないのが当たり前になっているのかもしれない」と言い、「もし帰ってこないとすると、これが田植え期のニューノーマル(新しい常態)ってやつなのかもしれません」と話している。

日本感染症学会の専門医・指導医で県立丹波医療センターの見坂恒明地域医療教育センター長(46)は、「1年前のウイルスと比べ、ざっくり言って1・5倍感染力が強く、『去年は大丈夫だった』家庭が、今年も大丈夫だろうと言える状況にない。受け入れるための『備え』を考えるより、最初から『帰省をしない』を選択し、持ち込まれるのを防ぐのが一番だ」と呼びかけている。

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