新型コロナウイルスの影響などにより、アメリカを中心に一戸建て住宅の関心が高まり、ベイマツ(米松)など外国産材の輸入が激減し、そのあおりを受けて国産材の需要が高まり、値段が高騰している。「ウッドショック」とも言われる世界的な現象で、外国産材がない分、国産材の引き合いにつながっており、関係者によると兵庫県産材や同県丹波市産材の需要も伸びている。一方で、木材費の値上がりにより、マイホームの建設費にも影響が出るとみる工務店もいる。林業や、製材、ハウスメーカーなど、業界を取り巻く現状を調べた。
アメリカではコロナによるテレワークの普及に伴い、郊外で戸建て住宅を建てる人が増えていることに加え、中国が高値で木材を買い付けていることもあり、外国産材が日本に入ってこない状況にある。梁や柱など、建物の中心となる構造材には、強度があるベイマツが使用されるケースは少なくなく、その代替を国産材に求め、その結果、価格が上がる構図が成り立っている。
丹波市産材をはじめとする国産材の木材市場、丹波林産振興センターの西脇誠センター長(52)によると、丹波市産のスギが例年より1立方メートルあたり4000―5000円ほど、ヒノキは同1万円ほど値上がりしているという。国産材の取引量自体も増えており、市外から競りに参加する業者も散見されるという。「今、林産振興センターが抱える在庫は少ない。それだけ国産材が売れている証拠だ」と語る。
ベイマツを仕入れる東洋製材所(同市柏原町)の上田棟次郎社長(82)は、「今、ベイマツを注文しても、秋の納品になると聞いている。値段も2、3割増し」と話す。普段なら舞鶴港に山積みにされているが「1本もない」とこぼす。
ベイマツにこだわる顧客には、代替品として国産のスギやヒノキを提案しているが、強度がやや劣る分、厚みが出るため、やや割高になるケースもあるという。
「国産材を使うのは結構なことだが、伐採しようにも山に“道”がない。高知県は作業道が縦横無尽に走っており、林業に力を入れているのが分かる。丹波でも『良い木があるな』と思う山は多い。うまく作業道が付けば、もっと林業は盛り上がり、山にある“宝”を生かせる」と一筋の光を見る。
国産材、外国産材ともに使用して住宅を建てるある地元の工務店は、木材価格の上昇のあおりをまともに受けていると話す。「例えば1軒につき200万円かかっていた木材費が、280万円ほどになっている」とし、今後も高騰が続くと予想する。6月に外国産材を注文しても、入るのは秋の見通しという。
「都市部の大手住宅メーカーは、秋まで客との契約をストップしていると聞く」と言い、事態の重大さを実感している。これまでに契約済の客の木材費の値上がり分は、同社が“かぶる”という。「利益よりも引き渡しを優先する」とし、今、契約を進めている客には、木材の市場価格により総予算が値上がりする可能性を伝えている。「状況は悪くなる一方だ」
市内のある建設会社代表は、木材価格の上昇が続けば、マイホーム需要が冷え込むと危惧。住宅ローンの審査が通過しないケースが出てくると示唆する。
国産材の需要が高まる一方で、「人手不足の林業には供給力が十分でない」と話す。これまでのように豊富な外国産材での建築に立ち戻ることは難しいとみており、「アメリカ、中国もどんどん戸建て住宅を建てるだろうし、まさに今が歴史の転換点」と力を込める。外国産材より節が多く、反ったり曲がったりしやすい傾向にある国産材の特徴を認める重要性を説き、「エンドユーザーが観念を変える必要がある」とこぼす。
グループ企業を含め、市産材などの伐採から製材、建築まで一貫して行う木栄(同市青垣町桧倉)の足立栄逸会長(74)によると、梅雨の季節は木材が傷みやすく、取引量が落ち込むのが例年だが、これまで取引が少なかった業者からの問い合わせもあるという。同社が扱う国産材も、部位によって異なるが平均して3―4割ほどは値上がりしている。「木材がないから、『何とか助けてくれないか』と。需要に応えたいが、得意先にしわ寄せがいくのも困る」と語る。
今の状況を「正直、先が読めない」と不安をのぞかせる。「確かに国産材の価格が上がっても売れる。商売はしやすいが、もろ手を挙げて喜べる状況ではない」と言い、国産材の“価格の維持”ができるかどうかに注目している。「怖いのは反動だ」とし、今後訪れるかもしれない建築業界の一時的な冷え込みの可能性を危惧している。
一方で、“チャンス”と見ている部分もあるという。「外国産材から国産材にとって代わる機会になるかもしれない」。伐採してすぐ市場に出せるわけではなく、伐採に伴う各種申請や乾燥期間もあるため、その間に市場状況が変わる可能性はあるとしつつも、「いかに業者に国産材を使ってもらえる提案をできるかが大事。人が山に関心を持つきっかけにもつながっていけば」と前を向いた。