兵庫県丹波市市島町鴨庄地区の岩戸、喜多地区を流れる岩戸川沿いの田んぼなどで大量発生し、水稲を食い荒らしている外来種「ジャンボタニシ」が、餌でおびき寄せて捕獲する地道な作戦によって大幅に数を減らしている。被害が深刻化していた喜多自治会(西山泰治会長)で被害対策を助言している県立人と自然の博物館の三橋弘宗研究員が毎週1回捕獲。餌を与える場所やタニシが集まりやすい場所を見定め、薬物に頼らず効率的に捕まえる方法が功を奏している。三橋研究員によると、昨年と比較し、100分の1ほどの数になっていると言い、「喜多自治会での取り組みは、国内のジャンボタニシ対策のトップランナーだ」と胸を張る。
稲食われ数度の植え直しをした生産者も
正式名称は「スクミリンゴガイ」で、南米原産。成貝の殻高は約3―8センチになる。喜多自治会では5年ほど前から確認され、昨年、被害が深刻化。ほ場の所々で稲を食い荒らし、円形脱毛症のような状況になったほ場も。荒らされた部分に数度の植え直しをした生産者もいた。
被害対策は、モデルほ場15枚で取り組んでいる。畔から50センチほど間隔を開けて稲を植えており、このスペースに餌となる米ぬかを週1回、生産者が投入。集まってきたところを手や網で捕まえる地道な作業を繰り返している。5月から捕獲し続けている三橋研究員によると、罠を仕掛ける方法も実践したが、手で取る方が効率的という。
殻の皮が薄く、冬の寒さで死滅したり、ヤゴの餌になったりする子どものタニシには目もくれず、巨大化した親の捕獲を徹底している。雄と雌が出合う確率を下げることで交尾させず、生まれる数を減らすことも狙い。三橋研究員は「家族ぐるみで捕獲してくれる生産者もいて、協力的で助かっている」と感謝。市農業振興課の職員も業務として捕獲している。
餌による一網打尽に加え、三橋研究員が目を付けたのは、ほ場の周囲に設けられた溝「ひよせ」。常に水がたまり、格好の住み家になっており、逃さず捕獲している。
このほど、博物館実習の一環として大学生7人が捕獲に参加。2チームに分かれて親を捕獲し、鮮やかなピンク色の卵も取った。全体で300匹ほど捕獲したが、中には1匹もいない「完封」に成功したほ場も。昨年、卵塊が500個確認されたほ場も、今年は2個だった。昨年、岸辺の壁面にびっしり卵塊が産みつけられていた岩戸川にかかる「馬橋」付近では1個だった。
今後、中干し時には、ほ場の中心部での捕獲を試みる。稲刈り後、水がたまった個所に集まって来た個体を取るほか、冬場は冷え込みがきつい日に田をすき込み、寒風にさらすことで、土中で越冬するタニシを死滅させる耕転作業を実践する。来年も今年同様の捕獲作戦を実施し、全滅を目指す。来年は米ぬかより好むとされる、イネ科のタケノコを餌に試すという生産者もいる。
西山会長は「今年はほとんど被害がないと言ってもいい。効果を確認できている」と笑顔。三橋研究員は「近畿地方の日本海側でジャンボタニシの被害が確認されたのは市島で、ここが被害の源流だ。市島で食い止めなければ、もっと被害が甚大になる」と警鐘を鳴らし、「複数の対策を組み合わせる総合防除が圧倒的な効果を上げている。来夏には、もっと減らせる」と自信をのぞかせた。