新型コロナウイルスの感染に歯止めがかからない中、兵庫県丹波地域(丹波篠山市、丹波市)では実りの秋が始まり、書き入れ時の観光シーズンが訪れようとしている。両市とも味覚イベントなどは行われないが、丹波篠山市では昨年10月、恒例の「丹波篠山味まつり」を中止したにもかかわらず、過去最多となる58万人の観光客が訪れたこともあり、今年は昨年より警備員を拡充するなどの対策を講じる。また、観光客の多くが目的とする黒枝豆を販売する農家からは、「都会からたくさんの人が来てくれるのはうれしい。一方でコロナも怖い」という声や、「できる対策を行うだけ。昨年は売り上げが伸びた。ぜひ昨年の再来を」と待ち望む声も聞こえる。
◆農家 「対策で安心感がよりPRに」
丹波黒枝豆や丹波マツタケ、丹波栗など秋の味覚で知られる丹波篠山市。「昨年は普段の1・3倍ほど黒枝豆が売れた。いつもなら少し余る畑の豆が全部なくなり、まだ欲しいくらいだった」。市内の農家の男性(72)がほほ笑む。昨年は商品の前にアクリル板や消毒液を置いて販売した。順番待ちの客が間隔を取れるようにと、約1メートル50センチごとに地面にテープも張った。「急ごしらえだったけれど、できることはそれくらいで、対応といっても限界がある」と言う。
感染への不安はあるものの、「日本農業遺産にも認定され、みんながプライドを持って作っている。コロナ対策も取り、少しでも安心感とおもてなしにつなげることが、より丹波篠山のPRになるのでは」と話す。
一方、別の農家の男性(69)は、「昨年は、よく売れたし、うれしかったけれど、他府県ナンバーを見るとヒヤヒヤしたのも事実。今年はワクチン接種が進んでいるとはいえ、感染しないとは言えないので複雑。接種が進んで、丹波篠山以外が選ばれるのか、また来られるのか。どっちなんかな」と複雑な表情を浮かべた。
◆観光施設 「できることやるしか」
観光施設も受け止めはさまざま。株式会社「アクト」が運営する「大正ロマン館」と「丹波篠山百景館」は共に、昨年10月の売り上げが前年比で1割以上増えたという。
同社担当者は昨年を振り返り、「良い意味で予想を裏切られた」としながら、今年については、「緊急事態宣言が延長されたし、去年と同じ、というわけにはいかないだろう。商品が売れずに悲鳴を上げることになるかも」と戦々恐々だ。
JA丹波ささやまが運営する農産物直売所「味土里館」は昨年10月の売り上げが前年比の2割増。観光バスはほぼなかったが、代わりに近畿圏の県外ナンバーの乗用車が多く見られた。同館の長谷川敬彦館長は「想定外の人出だった。従業員が一番(感染が)怖かったと思う」と振り返り、最善のコロナ対策を期してきた。
今シーズンに向け、「県外ナンバーの車を見ると心配な部分はある。しかし、お客様に来ていただけることがうれしいというのは本心。でき得る対策を徹底したい」と話している。
栗とブドウの収穫が体験できる「森口栗園」は、19日から栗の収穫体験を始める予定。昨年からコロナ対策として事前予約制とし、体験時間帯を3つに分け、来園者数を制限。栗の試食コーナーはやめ、ゆで栗を粗品として持ち帰ってもらう。
同園の森口昌英代表によると、昨年は「例年より少ないと思っていたが」、例年並の来園者数だったという。「今年もできることをやっていくしかない」と話す。
一方、温浴施設は感染対策をしているが、客足は鈍い。「こんだ薬師温泉ぬくもりの郷」は、入館を50%に抑えている。今季の来館者数を、例年の3割減だった昨季と同レベルと見込み、運営する夢こんだの杉尾吉弘社長は「ワクチン接種者が増えてきたから、緊急事態宣言が明ける10月には客が増えてほしい」と期待する。
◆市 対策強化も「ふたを開けてみないと」
市や観光協会などは、昨秋の観光客数が過去最多となった要因を▽GoToトラベルを使って有馬温泉や城崎温泉などを訪れる人が、行きや帰りに立ち寄った▽味覚が旬を迎えたことがテレビなどで取り上げられることが多かった▽学生の社会見学や修学旅行などが増えた―などと推測。もともと観光客が多い時期に、適度な距離にあり、コロナがまん延していないという条件がはまった。社会情勢が人を呼び込んだともいえる。
昨年は、思いもよらない観光客の増加で、渋滞や歩行者が道にあふれるなど、市民生活の支障となるケースが発生し、市は急きょ、城下町地区内の各交差点に警備員を配置した。
今年に関しては未知数。ただ、昨年を教訓に事前に計画を立てて警備員を配置する。今月23日―11月7日まで、平日は3人体制、土・日曜、祝日は13人体制を取る。駐車場も三の丸西駐車場に加えて、三の丸広場も開放することを検討。インターチェンジからの渋滞を緩和するため、カーナビなどが示すルート以外の道を案内する看板をインター付近に置く。
また、城下町に人が集中することを避けるため、今田地区や福住地区など、市全域の魅力を伝えるよう、ホームページで発信する予定。市観光交流課は、「『来て』とも『来ないで』とも言いにくく、さじ加減が難しい。多くの人が来た場合の対応をいかにスムーズに行うかが課題だが、ふたを開けてみないと分からない」とし、「城下町だけではなく、いろんな場所を楽しんでもらえるように誘導し、集中を避けたい」としている。