数々の映画やテレビドラマに出演し、俳優として活躍する兵庫県丹波篠山市出身の辻やすこさん(37)。今年8月、新型コロナウイルス感染症による肺炎で逝去した俳優、千葉真一さん(享年82)が創設したアクション俳優養成所「ジャパンアクションクラブ)」に入門したのが7年前。千葉さんから「相手の呼吸を意識しろ」「自分のやっていることには嘘をつくな」とアドバイスを受けながら、アクション俳優としての演技を磨いてきた。師の突然の訃報に涙を浮かべながら「教えてもらったことを胸に、憧れの千葉さんに少しでも近づきたい」と、今後の活躍を誓っている。
身長168センチ。大学在学中にファッションモデルとして活躍した。卒業後、英語の非常勤講師として丹波篠山市、三田市内の中学校に2年間勤めたが、モデルの道を諦めきれず、25歳で上京。映画制作会社でアルバイトしていた時、映画出演の誘いを受けた。モデルで生きていくには身長が足りないと感じていたこともあり、心機一転、26歳で役者人生をスタート。芸能事務所「東映アカデミー」で2年間、発声方法など芝居のいろはを学んだ。
千葉さんと出会ったのは2014年。関西弁を喋る教師役で出演した映画「歌舞伎町はいすくーる」で共演した。そこで、「JAC(ジャパンアクションクラブの略称)に入ってみないか」と誘われた。アクション映画に興味はなかったが、日本を代表する名優から直々に誘われたことと、竹刀を振るシーンで納得のいく立ち回りができず悔しい思いをしたことから、入門を決意した。
入門後、週2回程度、1日2時間の練習に参加。千葉さんが足を運ぶ機会は多くなかったが、「稽古場にはいつも突然来られる。千葉さんが来ると、稽古場のピリピリ感と緊張感が一気に増していました」と笑う。
辻さんは演技をする上で、入門当初に千葉さんからもらった「相手の呼吸を意識する」というアドバイスを大切にしている。相手の呼吸を感じることで、その場でしか感じ取ることのできない「間」を持った演技ができるという。
「(刀などを振るシーンでは)相手を本当に切っているように見えるよう、手だけではいかず、腰の重心を移動させながら相手に向かっていくこと。おのずと相手のリアクションも良くなる」「アクションの演技はリアルじゃない。『嘘』を作りあげていくもの。けれど、自分のやっていることに嘘はつくな」―。千葉さんから掛けられた言葉の数々を胸に秘める。「千葉さんの一番の凄さは迫力。背中からメラメラと炎が出ているような独特の雰囲気があるんです」
千葉さんと最後に会ったのは今年4月。普段、あまり人を褒めるタイプではないが、稽古場で休憩していたところ、「やすこ、よく頑張っているね」と声を掛けられた。「24時間、ずっと芝居の話をしていると錯覚するぐらい熱い方でした。『まだまだ自分は体力があるから』と言っていたのに…」と、言葉を詰まらせる。
「なぜ自分をJACに誘ってくれたのか。それを聞けなかったのが心残り」と辻さん。「ゆくゆくは『女性版千葉真一』のような存在になりたい」と意気込み、師への恩返しを誓っている。
上京して10年が過ぎた。「上京前は、丹波篠山は『田舎やなあ』と思っていたけれど、外へ出てから、空気の良さや食べ物のおいしさなど、当たり前だった環境の良さに気付いた」という。自身のSNS(交流サイト)では、積極的に故郷のイベント情報などをPRしている。
「いつか、丹波篠山でロケが行われる作品に出演してみたいですね」とほほ笑んだ。
【辻やすこ】
兵庫県丹波篠山市内の小中高校を卒業後、神戸親和女子大学に進学。大学在学中に大阪の芸能事務所に所属し、モデルとして活躍。大手百貨店の広告モデルを務めたこともある。2005年には、世界三大ミスコンの一つ「ミス・インターナショナル」でファイナリストに選ばれた。26歳で役者を始めた。その後、JAC(ジャパンアクションクラブ)に入門。14年に、「第1回新人監督映画祭」で新人女優賞を受賞。「赦免花」(13年)、「歌舞伎町はいすくーる」(14年)、「THE LIFT」(同)の3作品での好演ぶりが評価された。現在、俳優の小沢仁志さんが主演を務める配信ドラマ「列島制覇―非道のうさぎ」の7、8話に出演中。「U―NEXT」「Amazon Prime Video」などで視聴可能。