薬草の産地、兵庫県丹波市山南町和田地区の薬草振興に取り組む兵庫医療大学(神戸市)薬学部の前田初男教授(62)の研究グループが、同地区で栽培されている薬草の一つで、根に血行促進効果が認められる「当帰」の葉にも同様の効果があるのかどうかを評価する実験を行っている。和田地域づくりセンターで11月26日、被験者30人に当帰の葉を煮だして作った熱い「当帰葉茶」を飲んでもらい、血流の変化に関連する酸素飽和度や体の表面温度の変化を計測するなどしてデータを取った。12月3日には当帰葉の効果比較のため、30人に緑茶を飲んでもらい、同じ要領で計測を行う実験を予定している。実験結果は年内にまとめる。
当帰はセリ科の植物。根は、冷え性や月経不順、貧血など婦人薬の主原料として漢方処方にも多く用いられている。同大の調査で、葉にも少量ながら根と同様の成分が確認されているため、葉の効果効能を立証することで葉の価値を高め、販路拡大、産地振興につなげるのが狙い。
20歳以上の同地区住民男女60人が被験者として協力。26日の実験は、30人が当帰葉茶100ミリリットルを飲んだ後に、酸素飽和度、脈拍数などを計測し、サーモグラフィーカメラで顔と手の甲の表面温度を測定。これを10分毎3回繰り返した。
当帰葉茶を飲む前は、指先の毛細血管の血流量を示す値が低過ぎて測定不能だった高齢男性が、飲んだ後に数値が上昇したケースもあった。前田教授は「ごく短時間で血流促進効果が表れたのかもしれない」と期待を口にしていた。
3日には、別の30人が同量の熱い緑茶を飲み、同様の検査を受ける。
前田教授は、当帰がもたらす血行促進効果が「新型コロナウイルスの後遺症として知られる味覚障害や聴覚障害、手足のしびれなどに対する改善にも効果が期待できるのでは」とにらむ。後遺症の主な原因は、ウイルスを攻撃、排除するために増えた白血球の死骸が毛細血管に詰まることにあるといい、すでに病院では後遺症患者に対し、トウキシャクヤク散が入った漢方薬を処方しているという。
前田教授は、「当帰葉を茶にすれば、サプリメントのように日常的に飲んでもらえる。住民の皆さんから得られたデータを解析し、効果効能を『見える化』して、短期視点での健康改善・向上効果を裏付けていきたい」と話している。
同大と薬草振興の連携を図っている、ふるさと和田振興会の有田豊会長は、「血行不良は万病のもとと聞く。それに対する改善効果が実証されれば、当帰の需要拡大にもつながり、農家のやりがい、地域の活性化にもつながる。好結果に期待したい」と話している。
同地区での薬草栽培は1840年(天保11)、健胃薬として知られるオウレンから始まった。当帰栽培は1993年から本格化。現在15戸ほどの農家が栽培している。
根が漢方薬の原料として需要があるものの栽培規模が小さく、機械化が遅れていることや、農薬の使用制限で手作業が多く、栽培・加工に手間が掛かるなどの課題がある。
葉は長年利用されなかったが、国が2012年に医薬品的な効果、効能をうたわなければ、食品として使用、販売しても構わないと「非医」扱いに変更したため、同振興会と同大などは、販路拡大、産地振興につなげようと、葉を使用した入浴剤や茶、うどん、パンなどの商品を開発し、PR活動を展開している。