新型コロナウイルス患者の増加に医療提供が追い付かず、都市部では1度も医療を受けられないまま亡くなる人が出た昨年の「第5波」。兵庫県丹波地域では、感染判明直後に検査を受診し、早期に医療が介入し、感染者を医療から離さない、独自の「丹波方式」により、無症状、軽症者の重症化を防いだ。「第6波」への備えとして、「丹波方式」は「新丹波方式」に進化。より早く検査、治療が始められるようになった。昨年までの丹波地域の感染状況をまとめるとともに、「新丹波方式」の中核を担う、兵庫医大ささやま医療センター(同県丹波篠山市黒岡)の片山覚院長(66)に、話を聞いた。
丹波地域の感染者数は、ちょうど500人(昨年12月15日時点)。丹波市が268人、丹波篠山市が232人。丹波地域の感染者は、96%が軽症または無症状だった=円グラフ。
丹波新聞社の集計によると、人口10万対当たり感染者数は、全県で1449人。丹波は501人。但馬(352人)、淡路(391人)に次いで低い。阪神南と神戸市は1800人を超えている。
検査体制でも、独自の「丹波方式」がとられた。「2波」の2020年7月時点で、保健所への業務集中を避けるため、保健所を介さない検査体制を一部構築。医療介護施設にウイルスを持ち込ませない水際作戦を始めた。
職員、利用者とその家族は、独自の検査基準を作成し、検査を受けやすくした。重症化しやすくく致死率が高い高齢者を守るためで、そのかいあってか、医療介護施設のクラスターはゼロ。高齢層の感染者は少なかった=グラフ1。
ワクチン接種の影響を受ける前の1―4波(昨年6月11日)までの県内自治体の致死率などを調べた片山覚院長によると、丹波地域のコロナによる死亡率は、人口10万当たり1・9人、致死率は0・84%だった。県全体では21・4人、2・98%。神戸市は35・8人、3・6%と高かった。死亡率の低さは、高齢者を守れたことの証しと捉えている。
感染者の半数以上が、2021年7―11月の「第5波」=グラフ2。若年世代に広がり、10歳未満は全感染者の76%、10代は72%と高く、20代でも53%を占めた。一方、80代は25%と少なかった。「5波」ピークの8月は、若年層のワクチン接種は始まっていなかった。
「6波に向け、5波以上の備えができている。両市の医師会、保健所、近隣病院との連携は深化している」と、320人ほどの感染者の主治医を務めた片山覚院長は、静かに話す。
「新丹波方式」=図下段=は、無症状・軽症者をより早く検査、治療につなげるため、開業医が直接、ささやま医療センターに感染者を紹介する。保健所の仲介にかかる時間を省いた。「丹波方式」=図中段=は、検査で医療が介入し、結果によって入院や宿泊療養など感染者の処遇を保健所が決める画期的な仕組みだった。全国、県=図上段=は、医学的根拠なしに保健所が問診だけで処遇を決めていた。他地域より早く医療につなぐ「丹波方式」が、「新丹波方式」でもう一段早くなる。
発症から1週間以内、早く投与するほど効果がある点滴治療「抗体療法」をより早く始められる。同病院で重症度を5段階で評価し、患者情報を保健所に連絡する。
また、岡本病院(丹波篠山市東吹)が、6波に備え17床の病床を確保。ささやま医療センターの19床と合わせ、両病院で5波の2倍程度の患者を受けられる見通し。全県から中等症、重症患者を受ける県立丹波医療センター(丹波市氷上町石生)は15床。圏域で51床になる。
ベッドが増えれば、病状が悪化した際、入院先を探すのが難しい都市部へ宿泊療養に行かずに、地元で治療、入院が完結できる人が増える。検査の結果、入院不要となった人の自宅療養をスマートフォンなどITを使い支える仕組みも構築済みだ。
96%を占める無症状・軽症患者を地元で完結させる肝は重症化予防。人工呼吸器を付けるような重症になると、スタッフが大勢要り、受けられる患者数も少なくなる。
さらに、同センターが昨年9月に導入した免疫分析装置により、血中のたんぱく質などから、「増悪リスク」が詳しく分かるようになった。無症状・軽症で検査を受けた人でも、放っておくと「この人は1、2日で」「この人は6日ほどで」悪くなると予測が立つ。
「保健所が、『無症状だから宿泊療養で』と問診だけで判断するのは危ないと、改めて実感した」と片山院長。「後手に回ると悪循環。いくらすごい病院でも、患者が多くなると崩壊するのは5波で経験したこと。6波に向けても、丹波地域は5波同様、高齢者施設を守るまん延防止に努めながら、医療機関と保健所の連携により、地域の感染者に寄り添った医療を提供していきたい」と話した。