かかしが立ち並ぶ、兵庫県丹波篠山市の市野々集落に今月、「市野々かかしの里 バス停ミュージアム」が“開館”した。市野々バス停のそばにある車庫の中で、年中、住民の趣味を生かした作品を展示する。同ミュージアムを開設した「市野々かかしの里づくりプロジェクト」代表の村山紳一さん(71)は「世界一ちっちゃな美術館」と笑い、「コロナ禍で地域コミュニティが薄れがちな中、元気な地域づくりにつなげたい」と意気込んでいる。
現在は、15人ほどの住民が約50点を展示。ひな飾りやつるしびなをはじめ、絵手紙、刺しゅう画、編み物、木工、写真、俳句など、多彩な作品がずらりと並んでいる。かかしも置いている。
かかしが数体並んでいるだけだった「空き家ならぬ、空き車庫」(村山さん)を活用。高さと幅は3メートル、奥行きは4メートルほど。作品は、車庫内の壁に飾ったり、棚に並べたりしている。
目印となる看板は、昨年9月に同集落に移住してきた加藤梨絵さん(31)が制作。集落内の空き家に残っていたちゃぶ台に、バスのイラストとミュージアム名をチョークで描いた。
年中無休。開館時間は原則、午前10時―午後4時。季節に応じ、展示品を模様替えする。ジャンルは問わない。
20日に、同ミュージアムでオープニングセレモニーが開かれた。住民ら約40人が足を運び、くす玉を割り、記念写真を撮影するなどして開館を祝った。来場者には、加藤さんが制作した看板デザインが描かれた缶バッジを贈呈した。
つるしびなと刺しゅう画を展示している女性(73)は「皆さんに見てもらえるのがうれしい。また作ろうという意欲が湧く」と笑みを浮かべていた。
同集落の人口は約50人。65歳以上は75%に及ぶという。コロナ禍前は、市内各地でひな人形などを展示する「丹波篠山ひなまつり」の会場の一つとなり、手作り作品の販売やフードコートなどを設けるなどしてにぎわいを見せていた。しかし一昨年、昨年は、コロナ禍と高齢化の影響で、同集落でひなまつりは開催できなかった。
住民同士が触れ合う場も少なくなる中、「もう一度ひなまつりをやりたい」という声が住民から上がった。また、趣味を持つ住民も多いことから、以前から作品を展示する「『美術館』をつくってほしい」という声もあった。そこで、村山さんが、趣味作品とひな飾りの両方を展示でき、市野々の魅力を発信する拠点にと「ミュージアム」の開設を思い立った。今年は、ミュージアムが「丹波篠山ひなまつり」の会場にもなっている。
村山さんによると、「『私も作品作りを頑張ってみよう』という人が増えてきた」といい、ミュージアムの存在が、住民の生きがいづくりにも一役買っているよう。「見に来てくれた人から、住民の思いがこもった『世界一あったかい美術館』と言われたときはうれしかった。人口が減り、空き家は増える一方だが、市野々には元気な人がこんなにいるということを知ってもらいたい」と話している。
同集落は、「丹波篠山ひなまつり」に合わせ、8年前からかかし作りを始めた。衣装、形もさまざまな約40体のかかしが集落内に立っている。現在は、住民有志による「市野々かかしの里づくりプロジェクト」のメンバーが中心になり、製作している。