兵庫県丹波篠山市立八上小学校の児童会が、校内改革を進めている。児童たちの長年の懸案だった「男子更衣室の設置」について、小田環校長と5月から交渉を重ねた末に実現。パソコンとインターネットを駆使しながら、要望の根拠となる児童たちの意見をデータとして収集するなど大人顔負けの”戦略”を展開し、学校側も真摯に意見を受け止めながら、現在も新たな要望の実現に向けて議論を進めている。児童会長の井関旺雅君は、「校長先生との話し合いは緊張するけれど、もっともっと楽しい学校になるよう、これからも頑張っていきたい」と力を込める。
夏休み前の7月15日。校長室の前に、小脇にパソコンを抱えた児童会役員4人が立った。「お時間を取ってくださり、ありがとうございます。校長先生にお願いがあって来ました」―。児童たちの新たな要望「男子更衣室にカーペットを敷いてほしい」を伝えるためだ。
パソコンを開き、カーペットを設置してほしい場所を画像で示し、「着替える時に床が冷たいのでカーペットを敷いてほしいという意見が多数ありました」などと理由を提示していく。
小田校長は、「カーペットを敷くことについては良いと思う」と前向きな回答。ただし、「敷き詰める? 部分的に敷く? 全面に敷いたら掃除が大変。検討の余地がある」などと指摘した。児童会は指摘をもとに再度議論し、意見をまとめた上で再交渉することになった。
役員らは、「意見が実現するとうれしいし、やりがいがある。八上小を変えていくために、もっといろんなことを自分たちでできたら」と達成感のある表情を浮かべた。
児童会と小田校長の交渉のきっかけは、プール開始を前にした「男子更衣室」の問題だ。これまで、男子は自分たちの教室で、女子は和室や更衣室(プール時)で着替えていた。しかし、男子たちも窓がない専用の更衣室がほしいと思っていたことに加え、女子も男子の着替えが終わるまで教室に入れず、次の授業準備が遅れるという悩みを抱えていた。
6年生の会話が発端だったが、児童会は全校が集まる「高城集会」で意向を確認。「一部の意見」ではなく、「児童の総意」であることの裏付けデータを取るため、インターネットのアンケート機能を使って、全校児童を対象に意見を募った。
すると、過半数の67・3%が男子更衣室を「必要」と回答。また、設置場所については、「多目的室」が1位となるデータが収集できた。
6年担任の岩島陽教諭から助言を得ながら、児童会が自主的に小田校長と交渉。データを示しながら要望を伝えた結果、多目的室はさまざまな会議で使用することから、かなわなかったが、幕を降ろした講堂の舞台を更衣室とする案でまとまり、すぐに利用が始まった。
交渉の際に教諭は同行せず、児童のみがテーブルに着く。また、事前に「アポイントメント」(面会予約)を取るなど、まるでビジネスマンのような動きを見せる。
小田校長によると、現児童会の動きには、過去の児童会の活躍があったという。「この2年間の児童会は、コロナ禍の中でもみんなが楽しめる、新しい活動を考えて実践した。そんな彼らの姿に憧れていた子たちが今の児童会。つながっていると思う」とほほ笑む。
児童1人に1台パソコンが導入され、普段からパソコンで学びを深めていることも、データ収集などで役立った。
また、児童たちの声を受け止める学校側の変革も大きい。「自分で学び、自ら行動していく」ことを掲げた同校。低学年の児童に困り事があったとき、学年縦断の「縦割り班」の6年生に相談し、児童自らで解決方法を探る「ピアサポート」制度を導入した。教諭らに見守られながら、児童の心の成長を促す体制を取っている。
先輩児童会の活躍、パソコンの導入、自ら行動する方針―。この3つがそろったことが、男子更衣室の実現につながった。
小田校長は、「児童から直接交渉を受ける経験は初めて。自主的に動き、思っていることをしっかりと伝えることで、意見が通ることもあるという体験にしてくれたら。これから先、生きていく上で必要な力だと思う」と言い、「学習内容が変わることで児童たちの動きも変わっているので、学校も変わらないといけない。可能な限り児童の声に応え、一緒になってよりよい学校にしていきたい」と話している。