兵庫県丹波市人権講演会が20日、ライフピアいちじま大ホールであり、約180人が、主役の元ハンセン病患者(らい病回復者)を女優の樹木希林さんが演じた映画「あん」(2015年)を観賞し、原作小説の著者、ドリアン助川さんの講演を聞いた。世界26言語に翻訳された同小説を「生きることの意味を書いた」とし、「主体的、能動的な人生でなくても、この世を『感じ、味わう』ことも、この世が私たちを生んだ使命の一つ」と、同病回復者との交流で気付いた、あらゆるものとの関係性の中で自分の存在を感じる「積極的感受」という考え方を示した。
「感染症と人権 小説『あん』で伝えたかったこと」という演題で講演。ラジオ番組で若者の人生相談に乗っていた時、若者が10人いると10人がそろって、「社会の役に立つために生まれてきた。社会の役に立たないと生きている意味はない」と言うのに違和感を感じ、ハンセン病患者の境遇が脳裏に浮かんだ。諸外国では特効薬ができたことで1950―60年代に隔離が解かれたものの、日本では「らい予防法」で96年まで隔離が続いたことが新聞で話題になっていた。
病気が治った後も療養所に居さされた人、ハンデを背負った人に「役に立たないなら生きている意味がないとは言えない」と思い、社会で有用な人間になることは素晴らしいが、我々は本当にそんなために生きているのかと問い直し、どんな環境、運命の人にも、肯定的な意味があるのではと考え、同病をモチーフの小説を執筆。療養所で出会った女性が、主人公のモデルになった。女性は、病気で教師になりたい夢を断たれ、思うように生きられなかったものの、あらゆるものに言葉があると、風の音や小豆など、声なきものの「言葉」に耳を傾け、自身の視点を構築し、世界が変わった女性だった。
映画で描かれなかった部分の原作小説(主人公のモデルからの手紙)を朗読し、講演を締めくくった。
◆「あん」あらすじ あるどら焼き屋。求人の張り紙を目にした老女が雇ってほしいとやってくる。彼女の作る粒あんのおかげで店は大繁盛。しかし、老女の曲がった指から、ハンセン病患者ではと噂が立ち…