住民運動で暴力団事務所を退去させた兵庫県氷上町成松の実話に着想を得た映画「銀幕の詩」(監督・脚本=近兼拓史さん)が、およそ4年の歳月を費やし完成した。「皆が困っている場所を、皆が喜ぶ場所、映画館に」という脚本に沿い、作品で描くために映画館「ヱビスシネマ。」を開業。シナリオを現実化するという空前絶後の作品。劇場公開は、来春の予定。
暴力団事務所の出現と跡地活用問題という「丹波市最大のピンチ」をどう乗り切るかが見どころ。主役は、俳優が演じる丹波市総合政策課職員。市民と行政が力を合わせ、暴力団の立ち退きに成功し、その後の跡地活用に悩みながらも共に力を合わせ、映画館をオープンさせる物語。
地元の中央小学校、氷上中学校の児童生徒のほか、市民エキストラが200人以上登場する。上映時間は約90分。近兼さん(60)が監督、脚本を務めた「恐竜の詩」(2018年)に続く、丹波市を舞台にした「メイド・イン・丹波映画」の第2弾。
事務所跡地を映画館に、は近兼監督のアイデア。自身の脚本、「跡地を映画館にする」を撮影するため、14年に成松連合区が買い取り公民館にしていた事務所跡地の土地建物を、近兼監督が取得。建物を改装し「ヱビスシネマ。」として昨年7月に開館させ、半世紀ぶりに成松に映画の灯をともした。
当初の脚本では、クライマックスシーンは映画館の完成、開館だったが、撮影中に、「親が好きだった映画館をつくるのに役立ててほしい」と、市民から形見の指輪を売った現金の寄付があるなど、「想定以上の美談が続き」(近兼監督)、大幅に脚本を書き直した。
本来は昨秋完成予定で、1年遅れた。何度も発令された緊急事態宣言など、新型コロナウイルスに翻弄され、撮影は中断。この間に、氷上郡(現丹波市)、同市の近代史、地理を調べ、市内を流れる加古川と由良川の2つの川と共に栄え、生活してきたまちという考察を深め、作品に反映させた。
近兼監督は「『昔、成松に映画館が2つあってね』と地元の方から話を聞き、映画のため、まちのプラスのために映画館までつくってしまった」と頭をかき、「私が脚本に書いたら『やり過ぎだろう』と思われる美談がいくつも現実に起こり、劇中に盛り込んだ。人の気持ちが温かい丹波だから撮れた映画になった」と喜びをかみしめている。