挑戦達成の鍵は「熱量」 300名山踏破 プロアドベンチャーレーサー田中陽希さん

2022.12.28
地域

自らの挑戦について語る田中さん=2022年12月8日午後2時33分、兵庫県丹波市市島町上垣で

兵庫県丹波市立市島中学校でこのほど、プロアドベンチャーレーサーの田中陽希さん(39)を招いたPTA教育講演会があった。田中さんは日本で唯一のプロアドベンチャーレースチームのキャプテンとして海外レースに参戦しつつ、人力だけで国内の100名山、200名山、300名山を踏破する旅に挑戦。その様子がNHKBSプレミアムのドキュメンタリー番組「グレートトラバース」シリーズで放送された。全校生189人のほか、保護者らも参加し、講演後には生徒からたくさんの質問が飛び出した。講演要旨は次のとおり。

大学まではクロスカントリースキーをやっていたが、アドベンチャーレースと出合って、大学卒業後にプロになった。16年目になる。

アドベンチャーレースは、山、海、川などの大自然を舞台に、メンバー全員で協力してゴールを目指すスポーツ競技。世界大会では女性が必ずチームに1人以上入らなければならない。

新型コロナウイルスでレースが中断していたが、今年から再開され、9月にパラグアイで開かれた世界選手権にチーム(4人)で出た。通信機器は一切使ってはいけない。現地で初めて渡される地図を見て、コンパスを頼りに、97のチェックポイントを全て通過してゴールを目指す。昼夜ノンストップで、睡眠は5―10分、着の身着のままでとる。トップチームは550キロの距離を4泊5日でゴールしたが、日本チームは関門の7日間かかってゴールした。ただ前半に1人がリタイアし、ゴールには3人しか到達しなかったので、結果はリタイアとなった。

なぜチームレースかというと、1人だとすぐに死んでしまうほど危険だから。心が折れてしまっても、他のメンバーがフォローすることで、何とかゴールを目指せる。4人いるのは、メンバーがけがをした場合、1人は付き添い、残る2人でレスキューを呼びに行くことができるからだ。

2014年からは、競技を離れて、1人で国内の山々を巡る旅に挑戦し、これまでに100名山、200名山、300名山を達成した。チームとして成長するために、個人として普段から挑戦することが必要だと感じたことがきっかけだった。

職場の理解や資金が必要だったので、とにかく頭を下げて熱意を伝え、最初の旅の前には1年半かけて準備した。

1人で始めたが、ゴールする頃には、NHKの番組やSNS(交流サイト)を通じて多くの人に支援、応援してもらうことができた。たくさんの人が背中を押してくれていると感じた。挑戦するためには周りの理解や支援が必要であり、人間性や考え方が認められないとスタートラインには立てない。どの世界であっても、いろんな人のサポートが必要だ。

2015年の200名山の旅では、丹波市も歩いて通過した。

300名山の旅をしていた2020年4月、コロナの緊急事態宣言で苦境に立たされた。県境を越えての移動が制限されたからだ。山形県酒田市から動けなくなり、困っていたところ、すぐ住める空き家を紹介してくれる人がいて、ありがたかった。いつでも再開できるように毎日歩き続けて備え、3カ月後に再開できた。

2021年8月、北海道利尻山の山頂でゴールした。3年7カ月、2万キロの旅の間、動力を一切使っていなかったので、下山して車に乗った瞬間、旅が終わったことを強く実感した。

何かに挑むとき、達成の鍵になるのは「熱量」だ。挑戦することで何を得たいのかをしっかり持っていないと、挫折してしまう。明確な目的、目標を設定し、どんなことがあってもやり遂げたい気持ちが一番大切だ。

世界で誰もやったことがないことでなくても、自分にとって新しいことであれば、それは胸を張れる挑戦なのではないか。条件は一人ひとり異なる。「人」を支えに、どんなことでも臆さず挑んで。最大の近道は丁寧な一歩。その日が必ず来ると信じて、年輪のように積み重ねていってほしい。

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