日本六古窯の一つ、丹波焼の窯元50軒でつくる兵庫県丹波篠山市の丹波立杭陶磁器協同組合(市野達也理事長)は、脈々と受け継がれてきた伝統を次代に継承していくため、産地をより活性化させていく計画「丹波焼クリエイティブ・バレー構想」を打ち出した。組合として中長期的な視点に立った初めてのビジョン。2030年を一つの区切りに、国などの支援を受けながら拠点の「丹波伝統工芸公園 陶の郷」(同市今田町上立杭)をさらに魅力のある施設に改修することを目指すほか、大阪・関西万博(25年)の「ひょうごフィールドパビリオン」にも名乗りを上げ、魅力を内外に発信する。
同組合は指定管理者として陶の郷を運営。また、丹波焼に関するさまざまなイベントを催すなどしてきたが、将来を描いたビジョンは持っていなかった。
構想は、▽丹波焼を売る▽人が集う▽多世代が活躍する▽文化を深める―の4つの視点で構築。「焼き物といえば丹波焼」と言われるように認知度を高めることで、各窯元がしっかりと生計を立てられるようにし、自然豊かな里の風景や陶工と接することができることを強みに文化的な観光やインバウンドを呼び込むことで多くの人を集客することを目指す。
また、さまざまな世代がいる組合員の交流を強化し、長い歴史を持つ丹波焼の学術的な研究と発信にも注力する。
大きな課題の一つと捉えるのが陶の郷。拠点施設として、組合員の作品を展示・販売している「窯元横丁」や陶芸体験ができることなどが売りだが、入園者数は20年前の約10万人と比べて昨年度は約6万人と半減している。
市野理事長らによると、丹波焼自体の人気は好調で、コロナ禍によって自宅で食事をする人が増え、「器」に目が向いたことや、交流サイト(SNS)で消費者が丹波焼を発信するなど、イベントの来場者数や各窯元の売り上げなどは全体的に見ると、むしろ“上り調子”という。
その中で陶の郷が低迷しているのは、以前のような大型バスでの団体が減り、個人の旅行が増えるなど、旅行の形が変わってきていることや、施設の魅力不足などが要因と推測している。
このまま放置せず、より魅力ある施設として再生するため、設置者の市と連携しながら、文化庁の「文化観光推進事業」に応募し、計画が認定されれば、補助を得ながらギャラリースペースの改修やバリアフリー化、カフェなど店舗の設営などに着手する。
ひょうごフィールドパビリオンは、県が募集していた「SDGs体験型地域プログラム」に応募しており、万博で来日する外国人観光客を呼び込みたい考え。
計画ではほかに、長い歴史の象徴でもある「最古の登り窯」をさらに利活用することや、ビジョン実現のパートナーとして、兵庫陶芸美術館(同市今田町上立杭)や市とプロジェクトチームを立ち上げる。
組合などがこのほど記者会見を開き、構想を発表。同席した同美術館の三木哲夫館長は、「産地が元気なうちに将来を考えるという計画は大変、好ましいこと。美術館としても組合ともっと意思疎通を図りながら、共に地域のために頑張っていきたい」と歓迎した。
市野理事長は、計画策定の最大の理由を「危機感」と表現。「今、丹波焼は売れているし、多くの窯元に後継者がいる。そのため、どこかで『誰かがやってくれるだろう』という安心感がある。この甘えに一番危機感を感じている」と言い、「今のうちに将来を見据えた計画を立てておかないといけないと考えた。これからの人たちが100年、200年先を考える際に何か手掛かりになればうれしい」と話している。