スリランカの「今」知って 経済危機で生活困窮 出身の写真家が語る

2023.05.01
地域

自身が撮影した写真を紹介しながら、母国の現状を伝えるウィーラシンハさん=兵庫県丹波篠山市宮田で

未曾有の経済危機により、多くの人々が困窮しているスリランカ―。ロシアのウクライナ侵攻やトルコ・シリアの巨大地震などと比べて報道される機会は多くないが、現地は大混乱に陥っている。そんな状況を知ってもらいたいと、同国出身の報道カメラマンで、兵庫県丹波篠山市在住のブディカ・ウィーラシンハさん(54)がこのほど、NPO法人・篠山国際理解センターが主催する講演会で母国の実情を語った。ブディカさんの目とカメラに映った危機的状況とは。要旨をまとめた。

粉ミルク2倍超、ガソリンは3倍

昨年4月から4カ月間、母国に戻り、現地を取材した。スリランカではよくミルクティーを飲む。しかし、3月に212円だった粉ミルクの値段は5月には550円に高騰した。ガスは1052円から1838円へ、ガソリンは72円が216円へと、おおよそ全ての物価が急騰している。それは輸入に頼り切っていたからだ。電気も燃料が必要になるため、1日8―15時間という長い停電も起きている。

ガスも灯油も市場から消えたため、料理が作れない。そうなると選択肢は一つ。まきだ。最近ではスーパーでまきが売られ始めているし、山に入ってまきを集める人もいる。調理は一日1回に変わった。

このようなスリランカでは、新生児や5歳以下の子どもの体重が減少し、空腹のためか、学校で倒れる子どももいる。医師たちは、子どもたちに少なくとも卵1個を与えてと言っているが、卵がなく、政府が輸入することを決めた。卵の輸入は初めてのことだ。国連世界食糧計画(WFP)によると、スリランカの人口の30%に当たる600万人が最低限の食料を買えない状況だという。

病院も最初は治療してくれるが、2回目からは「薬と包帯を持ってきたら治療する」と言われる。がん患者や障がいのある子どもたちなどの治療も十分できていない。

スリランカと言えば紅茶が有名だ。しかし、政府は化学肥料の輸入を禁止した。いわゆるオーガニックへの転換だが、農家に無農薬栽培の方法は伝えられず、収量は激減した。また、収量が減ると働き手の収入も減る。一日8時間働いて500円ほどだった給料がさらに減っている。このような状況も、今の経済危機に拍車をかけている。

抗議デモに発展 人々は暴力的に

何とか燃料を買おうと、ガソリンスタンドには長い列ができ、並んでいる間に熱中症で亡くなった人もいる。人々の心には怒りが芽生え、ガソリンスタンドのオーナーとけんかしたり、ガラスを割って怒りをぶつけたりする人もいた。

そして、人々の怒りは大統領の辞職を求める反政府デモにつながった。デモはどんどん暴力的になり、100人以上が負傷したり、バスが燃やされたりした。ある政治家は暴行されて亡くなった。その後、軍隊によるパトロールが始まり、内戦状態のようになった。

7月にはスリランカ史上最多規模のデモが起こり、首相や大統領の公館を占拠した。大統領はシンガポールに逃げ、そこで辞任した。

スリランカが内戦にあった時代も知っているが、当時も確かにたくさんの人が命を落とし、住む場所を失った。しかし、今までとは違う怒り、暴力的な感情が人々の心に芽生えている気がする。

若者たち国外へ「変わらないと」

新たな大統領と政府は、国際通貨基金(IMF)から資金を調達しようとしているが、資金供給の条件として税金や電気代を上げることが求められている。電気代は今年2月から66%も上がり、新しい税制で多くの人の収入が減っている。

政府側はIMFからの要求であることや、教育、医療環境を維持するためとして理解を求めているが、国民は怒り心頭で、将来への不安がとても大きくなっている。

このような情勢を受けて、若い人の中には「スリランカに未来はない」と、国外に逃げようとする人もたくさんいる。

現在のスリランカは経済を通じた「戦争」だと感じている。毎日、ニュースで悲しい状況が映し出されている。苦しみが続いている中で、スリランカは変わらないといけない。経済が命を奪うことはあってはならない。

日本の人々もぜひ、スリランカの状況を見守り続けてほしい。この講演を通じて、少しでもスリランカの状況を知ってもらえたらうれしい。

【スリランカの経済危機】 2022年5月、スリランカ政府はデフォルト(債務不履行=国家としての破産)を宣言した。経済危機の原因はいくつかある。観光が主要産業の同国は、コロナ禍の影響を受けて壊滅状態になり、国家の収入が大きく減少した。そこにロシアのウクライナ侵攻による原油価格の高騰が追い打ちをかけ、多くを輸入に頼っていた燃料や食料などの価格が急騰。また、中国から港や空港などを建設するために受けた融資の返済が困難になり、港湾の運営権を99年間、中国に譲渡する事態にも陥った。大統領が人気取り政策として所得税を減税し、財政赤字が大きく膨らんでいたことも大きな要因となった。

関連記事