グリーンスペース造園(兵庫県神戸市)が、同県丹波篠山市福住の兼業農家、降矢昌孝さん(65)方に、水に浮かせて野菜を育てる水耕栽培の新システム「浮かせてファーム」の丹波篠山農場を開設した。土も農地も必要とせず、トラクターなどの農機具も不要で、水やりや追肥などの栽培管理が完全自動化した特許取得の新しい農法。同造園の代表取締役で開発者の小山茂樹さん(72)は、高齢化、低収入、重労働、多額な設備費などで衰退している日本の農業を憂い、「この次世代型農業を普及させることで、もうかる農業を実現したい。欧米80%以上に対し、35%程度といわれる日本の食料自給率の向上にも貢献したい」と話している。
新システムは、「浮かせてキット」と命名。水と液肥を混合した「養液」で満たした容器に穴の開いた浮力のある板を浮かべ、その穴に野菜苗や花苗を植えたメッシュポットを差し込んで、養液に浮かせた状態で育てる。容器内の養液はポンプで対流・循環させる。水量や養液濃度はコンピューターやセンサーによって管理され、自動的に注水や液肥注入が行われる。
容器のサイズは、一般家庭用の小さなものから、業務用の大きなものまでさまざまで、生産規模に応じて連結させて使う。同農場では外気温の影響を受けにくい断熱材で作られた業務用の特大容器(長さ約1・8メートル、幅約90センチ、深さ22センチ)を14個連結して使用している。
降矢さんは小山さんの友人で、「浮かせてプロジェクト水耕栽培研究会」の6人のメンバーのうちの一人。
同農場では現在、ミニトマト60本とピーマン36本を栽培。農場面積は約60平方メートルと、こぢんまりとしているのは、市場性や労力、収益性などのデータを取るモデル農場のため。農業経営については神戸大学農学部と共同で研究を進めているという。
小山さんによると、屋内で土の代わりに水を使って栽培する閉鎖型野菜工場は現在、さまざまな企業が取り組んでいる。安定供給ができ、農薬を一切使わないというメリットがあるが、栽培できる作物はレタスを中心とした葉菜だけで、1、2種類の野菜の大量生産が目的という。「照明や冷暖房、空調など設備に多額の資金を要し、電気代などの管理費も高額なため、多額の補助金を得ながらも経営が難しいのが現状」と話す。
対する「浮かせてキット」を連結させた新システムは、葉菜のほか、果菜、根菜、花卉、果樹など150種以上の作物の栽培が可能。露天栽培を基本とするため、照明や空調は不要で、季節に合わせて作物を栽培することで、管理費を抑えることができるという。270平方メートル当たりの1カ月の電気代は、従来の閉鎖型―の60―100万円に対し、3000円程度で、設備費も1平方メートル当たり2万5000円ほどと安価で、閉鎖型の10分の1程度で済むとする。
2009年、同水耕栽培新システムの開発に着手。14年、「水耕栽培キット」(家庭用)で特許取得。16年、「浮かせてキット」を商標登録。昨年は水耕栽培装置と、それを用いた植物の作付け方法で2つ目の特許を取得した。19年には「神戸の新商品」に、翌20年には「ひょうご新商品」に認定され、新規性や独創性などが認められた。
降矢さんは、「これまでさまざまな場所での栽培実験で、おいしくて安全な野菜が作れることは実証済み。多種多様な作物を組み合わせて栽培し、冬にも多くの野菜を安定して収穫していきたい。楽しくて、楽ちんな『楽農』を目指したい」とほほ笑んでいる。