兵庫県丹波篠山市福住の介護老人福祉施設「やまゆりの里」の駐車場にあり、かつて地域の酒蔵で使われていた井戸が、災害時などに活用される給水設備として生まれ変わった。重要伝統的建造物群保存地区内にあることから、蛇口だけでなくレトロな「手押しポンプ」も設置されたほか、焼き杉板や格子を取り入れた風情あふれる東屋も建設。同市内の1級技能士でつくる「丹波篠山職人会」が手がけたベンチも寄贈され、”憩いの場”としての性格も併せ持つ。
敷地内に計3基ある井戸は、かつて地域の酒蔵として銘酒を醸していた「野々口酒造」の酒造りで使われていたもの。同施設では、地域に親しまれた酒蔵の名残をなんとか活用できないかと考えており、「緊急用災害給水設備」にすることを計画し、山内水道店(同市八上内)に設計と施工を依頼した。費用は約1000万円で、うち県から600万円の補助を受けた。
同店の山内満さん(42)が地域振興や地域貢献に関わるボランティア活動も展開している「職人会」に所属していることから、会のメンバーも東屋の設置など施工に参加。昨年11月から着工し、今年2月に完成した。
また、今月22日から重伝建地区の全国大会が市内で開かれ、福住地区にも関係者が訪れることを受けて、より重伝建地区にマッチした憩いの場となるよう、職人会が手弁当で木製のベンチを制作し、寄贈した。
山内さんは、「地域で働くものとして、地域の盛り上げに貢献したいと活動している。『職人』の”固い”イメージを払拭できたらと考えました」と完成した設備を満足そうに眺めていた。
施設に入居する近松健一さん(86)は早速、手押しポンプを使い、「昔の家にも手押しポンプがあり、子どもの頃はよく水を出して遊んだ」と童心に返ったような笑顔を見せ、「災害時には水が必ず必要。ええもんを作ってもらいました」と感謝した。
福住まちなみ保存会の森田忠会長(71)も、「江戸時代には大規模な火災もあった地区。給水や憩いの場だけでなく、防火面でも役立つため、とてもありがたい」と話した。
同施設の首藤風施設長(49)は、「重伝建地区なので、井戸を使った設備が、昔からの生活を伝えるシンボルにもなれば。入居者さんたちも昔を思い出されるようで良いことずくめです」と笑顔で話している。