丹波乳業株式会社(兵庫県丹波市氷上町石生、吉田拓洋社長)が製造する「氷上低温殺菌牛乳」を約38年にわたり買い支えてきた消費者団体、一般社団法人「みんなの低温殺菌牛乳協会」(代表理事=高石留美さん)が、構成団体の相次ぐ解散などを受け、このほど神戸市で開いた総会をもって解散した。同牛乳は、「安心で信頼できる牛乳を飲みたい」という消費者団体の声に丹波市の酪農家が応える形で誕生した経緯があり、理解ある“応援団”を失うが、高石さん(73)=兵庫県豊岡市=は、「地域の人たちには、良い牛乳が身近にあることがどんなにありがたいかを知ってほしい」と呼びかけ、吉田社長(48)は、「大手にはできないアイテムとして、これからも大事にしていきたい」と話している。
同協会は、有機農産物を生産する農家などとつながる豊岡、姫路、神戸、宝塚、尼崎などの10団体や個人で構成していたが、うち4団体は2年ほど前から相次ぎ解散、1団体は今年、解散を予定しており、協会の存続が難しくなった。会員の高齢化に加え、生産者側の後継者が途絶えていく現状も団体の活動を失速させた。
高石さんによると、40年ほど前、県内の阪神間などの消費者団体の代表者が話し合う中で「身近な土地の安心な牛乳」を求める声が高まった。そこで白羽の矢が立ったのが、自然豊かで阪神間にも近い丹波地域。当時の氷上郡酪農農業協同組合の生産農家と消費者で勉強や話し合いを重ね、有機栽培の飼料を使うなどの生産基準を設けるなどし、1985年、「氷上パスミルク生産会」が発足、「氷上低温殺菌牛乳」が生まれた。2015年には関係団体で現法人を立ち上げた。
同協会はこれまで、同牛乳を使った料理教室、チーズ造り講習などを開催。コスト高がネックの酪農家や工場の助けになればとバイオガス発電を提案したり、同社の工場にソーラーパネルを設置したりし、「クリーンな牛乳」としてファン獲得を目指した。コロナ禍には、各地のこども食堂に同牛乳100本を届ける活動も行った。
他の牛乳との違いを感じ取り、重宝するスイーツ店や、同牛乳の普及に積極的な宅配店も多い。協会が解散しても、注文すれば同牛乳をいつでも飲めるように宅配店とのつながりは残した。
高石さんは、「苦労して生み出した牛乳。もっと積極的に市場に流通させる取り組みを進めるなど、今になると何とかできなかったのかと思うことはあるが、難しかった」と振り返り、「会社には自信と誇りを持ってアピールしてほしい。今後は、それぞれが個人で買い支えていきたい」とエールを送っている。
吉田社長は、「安全な食に対する理解を広げていこうとされていた協会。現在は食への関心が薄れているのか、後継者が続かなかったことは残念」としつつ、「飼料や燃料代の高騰などで酪農の現実は厳しいが、低温殺菌牛乳を必要としてくれるスイーツ店やパン店も多い。地産地消のブランドリーダーとして今後も大事にしていきたい」と話している。
〈氷上低温殺菌牛乳〉 65度で30分間かけて殺菌するため、牛乳が持つ栄養分(タンパク質、カルシウム)が壊されず、牛乳本来の質や風味が落ちない。農家が、安心な遺伝子組み換えのない飼料や自家製飼料を主とする飼育を行い、細菌数の少ない生乳が使われている。誕生当時は、丹波市内の酪農家のうち10軒ほどが同牛乳用の生乳を生産していたが、現在は3軒が1日約1・3トンを生産している。