兵庫県丹波市市島町東勅使の福井隆義さん(75)、朱美さん(68)夫婦が、50年営んだガソリンスタンド「福井石油市島給油所」を活用し、喫茶店「セルフコーヒー輝(かがやき)」をオープンした。約60平方メートルの事務所を改装し、セルフコーヒーマシンを設置。紙コップをセットして100円を入れれば本格的なコーヒーが味わえる。2人は「地域の憩いの場にしたい」と和やかな笑みを浮かべる。
モカ豆と相性の良い厳選した豆を混ぜた「モカブレンド」、コロンビアやグアテマラなど4カ国豆を組み合わせた「ザ・ブレンド」、苦さと甘さが共存する「ダブルロースト」、華やかな酸味と香りが特長の「アメリカン」の4種類。ザ・ブレンドとダブルローストはアイスもある。
カップ麺も販売。マシンから湯を出して作り、店内で食べることもできる。栄養ドリンクも売っている。
4人ほど座れる長方形のテーブルを置き、緑や車が行き来する風景を眺めながら、会話を楽しめる空間になっている。
壁には隆義さんのおじで、現代能面師の堀安右衛門さんに師事し、昨年逝去した光義さんが制作した能面10面ほどを飾っている。隆義さんは「『能面喫茶』と言われるようになるかも」と笑う。
ガソリンスタンドは、隆義さんの父・輝一さんと共に1972年に創業。朱美さんは「休日は元日ぐらい。ほぼ年中無休。『いつでも空いているから』と来てくれる人も多かった」と笑う。
しかし、セルフガソリンスタンドやハイブリッド車の台頭、高速道路が完成して下道を使用する人が減ったことなどに伴い、利用者は減少した。一昨年には隆義さんが体調を崩し、1カ月間入院。保守工事費用がかさむことも考慮し、開業して50年目のタイミングを良い区切りと捉え、昨年3月に閉鎖した。
跡地は「農業倉庫にでもしようかな」と考えていたところ、常連客から「ここで早く何かしてほしい」「シャッターが閉まっていたら寂しい」などと声をかけられた。二人は「これまで店に来てもらっていたお客さんに感謝の気持ちを示したい」と、憩いの場を作ろうと思い立った。
模索する中、隆義さんがネットでセルフコーヒーマシンを見つけた。「農作業もある中、これなら1人で店に立てて、負担も少ない」と、同マシンを設置し、先月1日にオープンした。
近隣住民やガソリンスタンドをやっていた頃の常連客が足を運び、隆義さん、朱美さんと共に世間話や近況報告に花を咲かせている。農作業の一服に訪れる人もいる。
2日に1回は散歩がてらに足を運んでいるという男性(84)=市島町東勅使=は「コロナで人間疎外の時代。だが、オーナーは2人とも気さくで、僕みたいな年寄りも相手にしてくれる。地域の者からしたらこういう場ができるのはありがたい」とほほ笑む。
朱美さんは「コーヒー1杯で輪が広がる。私たち夫婦にとっても、またいろんな人と交流ができる。もうかる、もうからへんは別。生きがい」と顔をほころばせる。
基本的には午前8時―午後6時に開けている。不定休。