新規就農を目指す人が1年間、有機農業の栽培技術や農業経営を学ぶ兵庫県丹波市立学校「農の学校」(同市市島町上田)に今春、10代の4人が入学した。5期生は18人。これまで10代の学生は2期生の1人のみで、異例の多さ。祖父母の農地継承や、体に優しい野菜を作りたいという思いを胸に、約1600時間のカリキュラムをこなしながら農業を一から学ぶ。
安藤廣公(ひろくに)さん(19)、澤理玖さん(19)、内田莞治さん(19)、芳之内仁さん(18)。
安藤さんは静岡県出身。購入する野菜を無農薬にこだわる家庭で育った。祖父は茶畑を野菜畑にし、サツマイモ、タピオカの原料となる「キャッサバ」などを栽培している。
「会社で働くのは性に合わない。自分でやりたいことをのびのびとしたい」と就農を思案。高校卒業後1年間、祖父の農作業を手伝ったが、基礎知識のなさを思い知った。「おいしい野菜を使った食事の時間の大切さや楽しさを、SNS(交流サイト)やネットを活用しながら広めたい」と意気込む。
澤さんは兵庫県加東市出身。高校時代は地球環境を学ぶ授業で、駐輪場の一角でナスの栽培に挑戦。自分で作ったナスのおいしさに感動し、野菜作りの魅力に触れた。
祖父ががんで亡くなり、祖母が持つ約3反の農地が1人では管理できなくなった。親の勧めもあり、「良いタイミング」と入学した。「ほとんど野菜の知識がないので、実業を学び、経験を積んでおいしい野菜を作れるようになり、舌の肥えた友人をうならせたい」と笑った。
内田さんは大阪府吹田市出身。中学時代から「人の健康に関わることを」と、救急救命士を目指していた。しかし、コロナ禍の影響で病院実習を受けられない事情などがあり、断念。夢を模索する中、「健康」というキーワードから「無農薬野菜」に結びついた。「学校の目の前に自然がある。そんな中で下宿しながらする農業は気持ちよさそう」と入学した。
「元々野菜は嫌い」と笑い、「ここで食べる野菜はスーパーで買うものとは、食感も甘さも全然違う。克服できつつある」と破顔。「オーガニック大国のオーストラリアなど、海外で農業をしてみたい」と夢を描く。
芳之内さんは入学を機に、兵庫県神戸市北区から丹波市へ移り住んだ。祖父母は神戸市内で米やナス、キュウリ、イチゴを育てている。高齢になり、家族間で後継者問題が浮上した。
幼い頃から祖母を手伝い、「野菜を育て、出荷するまでの過程を見るのが楽しい」と感じていた。父と同じ調理の道に行くことも考えたが農業の道を選択した。「夏冬野菜を育て、JAへ出荷できれば。小学生の頃、おばあちゃんにもらったキュウリがみずみずしくておいしかったことを覚えている。今度はおばあちゃんに『めっちゃおいしいやん』と言ってもらいたい」とはにかむ。
10代の4人に加え、20代も3人が入学した。同校事務局は「元々農業に興味がある若い人は多い。今年度、入学したのはコロナどんぴしゃの世代。都会でのオフィスワークより、外で体を動かす仕事に対してプラスなイメージがあるのかもしれない」とみる。
今年度の入学生の年齢層は10―60代と幅広い。「若い人は、消費者として経験がある先輩から話を聞き、社会勉強もできる。先輩は、刺激をもらえ、分からないことがあれば『一緒に考えようか』と新鮮な学びを得られるのでは」と話している。