読者の皆さんから寄せられた疑問を記者が調査して応えるコーナー「調べてくり探」。今回は兵庫県丹波篠山市内の小学2年生から寄せられた素朴な疑問です。「なんで夏休みだけ長いの?」―。「考えたこともなかったけれど、確かに」と思いつつ、とっさに「暑いからやないかな」と答えましたが、「エアコンあるけど」と鋭い返答。未来ある子どもにいいかげんな返事をしてはいけないと、公式な見解を聞くため、市教育委員会に尋ねました。
「良い疑問ですね」と応じてくれたのは、市教委教育研究所所長の足立圭吾さん。夏休みが長い理由は、大きく分けて3点。①暑いから②ヨーロッパのまねをしたから③子どもたちに日本の季節と文化を味わってほしいから―だそう。一つずつひもといていきます。
◆暑い日本の夏 エアコン最近
まず1点目の「暑いから」は記者も返答したこと。
「日本の7―8月はとても暑い。元気いっぱいの子どもたちが集まる教室はさらに暑くなります。私が教師をしていた頃、教室で35度を超えていたことがありました。これだけ暑いと勉強に集中できないので一番暑い時期を休みにしているのです」
では、エアコンがあることについてはどうか。
「今でこそ市内の全ての普通教室にエアコンが付いていますが、ひと昔前までエアコンはほとんど付いておらず、100%になったのは最近のことです」
文科省の資料によると、昨年度、全国の公立小中学校の冷房設置率は95・7%。ただ、2014年時点では32・8%、04年までさかのぼると17・3%にまで下がる。
また、近年は高温になる日も多く、熱中症の危険性も高まっている。教室の中は涼しくても登下校中や体育館、運動場などは灼熱―。勉強に集中できないだけでなく、健康を保つためにも暑い時期は休みになっている。
ちなみに夏休み(夏季休業)は「学校教育法」という法律の施行令に、それぞれのまちの「教育委員会などが定めることができる」とあり、各市教委は市の規則で期間を決めている。
丹波篠山市の夏休みは7月21日―8月26日。最近、新しい学習指導要領になり、授業時数が増えたことで、夏休みを短くする方向になっていた。そこにコロナ禍。これまで8月いっぱいだった休みは5日短くなった。
各市教委が決めるため、夏も涼しい北海道などでは夏休みが短く冬休みが長い、など、その土地によっても差があるそう。
◆ヨーロッパ参考に「学制」を発布
次の「ヨーロッパのまねをした」は、記者も知らなかった。
「ヨーロッパには夏に長い休みを取る文化・風習がある国が多く、中には3カ月も休みになる所もあるそうです。日本は学校の仕組みを作るとき、フランスなどに教えてもらったので、ヨーロッパにならって夏休みができたということです」
明治5年(1872)、今の学校制度につながる「学制」が発布された。それまでは寺子屋や藩の塾などで学んでいた子どもたちが、全国で統一された制度による学校に通い始める。この学制を制定する際、参考にしたのがフランス。長い休みという意味の「バカンス」も、もとはフランス語。ここで夏に長期で休む文化も入ってきたとされる。
同市出身でドイツ在住の人に尋ねてみると、確かに日本と比べてかなり長いそう。大人も夏に長期休暇を取ることが多く、「みんな夏休みのために働いている感じです」と言い、家族で各地に旅行に出るとのこと。ちなみに宿題はないという。
また、国によっては9月から新学年という制度の所もあり、学年の切り替わり時期に長い休みを入れているという。
◆夏ならではの体験味わって
「日本の季節と文化を味わってほしいから」は、足立さんが児童に尋ねられたら答えること。
「日本には『お盆』という文化があります。お盆には家族や親せきで集まったり、お墓参りをしたりして、家族やご先祖様とのつながりを感じることができますね。また、虫捕りをしたり、海水浴に行ったりと、学校ではあまりできない季節や自然を感じる体験をしてほしいと考えています。また、何もすることがなくて、『何をしようか』と自ら考える時間を過ごすことも大切な経験だと思います」
最近の小学生は学校だけでなく、さまざまな習い事もあって、毎日、忙しく過ごしている。長い休みだからこそ、普段はできないことを体験し、何もないならば、ぼーっとすることも人生にとって貴重な瞬間だ。
また、家族で旅行に出かけられるのも、長い休みがあるからこそ。学校以外のさまざまな思い出を作る時間でもある。
ちなみに夏休みの間、先生は何をしているのか。
「主に研修をして自己研さんを積んだり、2学期の準備をしたりしています。2学期が始まってすぐに運動会がある学校が多いので、その準備も必要。もちろん、子どもたちほどではありませんが、休みを取ることもあります」
最後に、2年生が抱いた疑問について。
「素朴な疑問はとっても大事です。インターネットで検索すると何でも答えが出てくる時代ですが、『本当かな?』と思ったり、さらに新しい疑問を持ったりしていくことを『探究的な学習』と呼んだりします。ぜひ、これからも疑問を大事してほしいですね」
調べた内容を“依頼者”の児童に伝えたところ、「ふーん、そうなんや」と話していた。