「世界大会」へ一歩 過酷なトレイルランレースの裏側 「地域に根差した大会に」

2023.08.19
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眺望が良い所もコースに組み込まれており、過酷なレースを走る選手を癒やした(実行委員会提供)

世界屈指の大会をコンセプトとし、開催2回目で初めて海外から選手を招待したトレイルランニングのレース「TAMBA100アドベンチャートレイル」(同実行委員会主催)が6月2―4日、兵庫県丹波市の丹波の森公苑を発着点とするコースで開かれた。レース前に大雨警報が発令され、100マイル(約160キロ)部門のスタート時間変更やコースの縮小、ボランティアスタッフの配置を変える必要が生じたりと、突然に、そして次々にトラブルに直面し、運営側は都度、判断を下さなければならない難しい大会となった。来年も開催を計画する実行委員長の中谷亮太さん(32)に、世界から有力選手を招く“世界大会化”への足掛かりをつかんだ一方で、課題が浮かび上がった今大会の運営を振り返ってもらい、今後の展望を聞いた。

悪天候で下した「決断」

100マイル部門は累積獲得標高がエベレスト2つ分という、世界でも類を見ない過酷なレース。同公苑をスタートし、市内の山々を経由するコースだったが、警報発令によりスタートが8時間遅れ、約25キロ短縮の143キロとなった。

この判断を下した中谷さんは、「自然を相手にしたスポーツだから仕方ない」と話す一方で、「100マイルを走るつもりで練習を重ねてきた選手の気持ちを考えると、難しい判断だった」と振り返る。天候が回復傾向だったことから開催し、中止は免れた。

山中を駆け抜ける選手(実行委員会提供)

ここで新たな課題が発生した。スタート時間が遅くなったのに関門通過時間を変えられない地点があり、特にレース前半で1時間ほど関門が厳しくなった。かなりのスピードレースと化し、「前後半で2つのレースができてしまった」。同部門で出走した65人のうち、関門を突破できたのはわずか19人。完走は17人、完走率は26%だった。

ただ、100マイル部門で出走しても、14キロと24キロ地点で100キロ部門への変更を可能としたため、「臨機応変な対応ができたことは良かった。最善の策ではあったと思う」と話す。

大会には160人ほどのスタッフが関わった。関門を兼ねた、水分や栄養を補給する「エイドステーション」の運営には地域住民らが携わり、過酷なレースを走る選手を支えた。選手と共に“戦った”ボランティアたちに対し、中谷さんは「この方々の協力なくして、大会はできなかった」と最大級の感謝を示す。

市民の認知度課題

多くの市民ボランティアが大会を支え、協賛した企業、個人は計80ほどに上った。大会への認知度は少しずつ上がっているという確かな手応えがある一方で、一般市民への浸透は「まだまだ」という。山中だけでなく、一部ではロード区間もあるレース。「なぜ、こんな夜中に走っているんだ」と不満をぶつける市民もおり、今後の大きな課題の一つに挙げている。

フランスのシャモニーをスタートする、世界最高峰のトレイルランニングレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン」(UTMB)に出場した経験がある中谷さんは、「UTMBは、まち全体でレースを盛り上げている。このレベルに少しでも近づけたい。来年の大会までに、市民に理解を求める作業に汗を流したい。その結果、選手に『丹波市って温かい地域だな』と思ってもらえるのではないか」と意気込む。

来年も海外から招待

海外から初の招待選手、ニュージーランド出身のディーン・スチュアートさん(19)が参戦した。前回大会の模様を紹介するNHK・BSのドキュメンタリー番組「グレートレース―人生が変わるレースがある」を製作したディレクターが橋渡し役となって、出場につながった。

ディーンさんがきっかけとなり、同大会のインスタグラムやフェイスブックなどに、海外からのフォロワーが増えたという。来年の大会は海外選手の出走が増えると見込んでいるが、「地域に根差した大会」を志しているため、外国語に堪能なスタッフを確保して選手をサポートし、丹波市を楽しんでもらえるよう各所への案内もしたいと考えている。

目指す「聖地化」

次回大会は、初心者が気軽に出場できる短い距離の部門をつくったり、キッズ部門も考えている。「地元の人が参加しやすくしたい」

年間を通じ、大会をシリーズ化する構想を抱いている。小規模の大会を複数開き、最後に「TAMBA100―」につなげるイメージ。シリーズ王者に賞金を出す青写真を描く。「丹波市がトレイルランニングの聖地と呼ばれるようになれば」

【なかたに・りょうた】 プロのトレイルランナー。大学時代、知人に誘われて競技を始めた。初めての大会では捻挫。2018年、富士山麓を駆け巡る「ウルトラトレイル・マウントフジ」で、29歳以下部門で日本人トップに入り、今後の活躍が最も期待される新人選手に贈られる「ニューヒーロー賞」に輝いた。22年には、フランスのシャモニーをスタートする世界最高峰のトレイルランニングレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン」に出場し、日本人4位(総合64位)。同年、国内有数選手を含む約300人が琵琶湖周辺を走る大会「LAKE BIWA 100」で、大会新記録をマークして優勝した。その他、数々の大会で好成績を残す。2025年ごろに、拠点を欧州に移す予定。

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