兵庫県丹波市にある県立丹波の森公苑で、「シカ問題を『食べる』から考える」若者向け講座(兵庫丹波の森協会主催)があった。市内で昨年度の猟期(11―3月)に捕獲され、シカの有効活用処理施設「丹波姫もみじ」(同市氷上町)に搬入された約1500頭のシカのうち、食肉にできたのはわずか200キロ強と、捕獲は進むものの狩猟期に搬入が集中し、設備と人手が足りず、食肉生産ができない課題がある中、座学と実食で、捕獲したシカを食べることの意味を、頭と舌で確認した。
県森林動物研究センターの横山真弓さんは、県は2010年度から対策を強化し、以前の2倍の年間4万頭のシカ捕獲を続けていることで、農業被害額は減っていると報告。一方、低カロリーで低脂肪、高たんぱくで鉄分豊富と、資源的価値が高いにもかかわらず、4万頭捕獲しても食肉としてほぼ活用されていない現状を憂い、「里山で生み出される命を奪っておいて、食べない動物はいない」と提起した。
シカ肉活用を啓発するNPO法人・里山グリーンネットワークの藤本裕昭さん(同市山南町)によると、シカ1頭当たり平均重量30キロのうち、精肉歩留まりが3割とし、内臓や骨を除き、1頭当たり10キロの肉が取れると説明。丹波姫もみじに昨年度の狩猟期に推計45トン搬入されたシカのうち、食肉にできたのは224キロで、実態は肉のほとんどがドッグフードになっているとし、「一日に丁寧に解体できる以上の数が、猟期にどっと持ち込まれる。搬入された日に全て解体している。一度にたくさん持ち込まれても犬の餌にしかならない」と、問題点を指摘した。
実食で、丹波市出身のフレンチシェフ、山本明弦さん(東京都)がテリーヌ、ナムル、コンソメなど11品のシカ料理を提供。家庭で作れるようにと、フライパンでシカもも肉のロースト調理を実演した。フライパンにたっぷり油を入れて熱し、塩こしょうをしたもも肉の塊を入れて表面を焼いた後、フライパンから取り出し、アルミホイルで包んでじっくり休ませた。「焼き過ぎないのがこつ」と山本さん。柏原高校調理部の生徒が分厚く切り分けた。
山本さんは「丹波のシカはおいしい。都内だったらソースと付け合わせを添え、ロースト肉2切れを9000円で提供する。地元の皆さんは気づいていないが、シカ肉にはそれだけの価値がある」と言い、「昔から山の人は、シカ、イノシシなどのたんぱく質、脂質、『自然の命』に助けられてきた。生を受け継いでこられたことへの感謝もなしに害獣とくくるのは悲しいこと。少しでも知って、ありがたく食べて、命を頂く」と、捕ったシカ肉を食べることの意味を考えるよう促した。